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[海外事例にみる企画ヒント編]2018年6月19日号
   ≫≫≫Author:脇本和洋
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こんにちは。脇本和洋です。
 
今号は、「高齢者向けの健康ビジネス」をテーマに海外ベンチャー事例をとりあげます。
 
5月22日に配信した[海外事例にみる企画ヒント編]では、「高齢者の転倒」「認知症の患者家族支援」をテーマに事例を紹介しました。
今回は、「難聴」「MCI(認知症予備軍・軽度認知障害)」をテーマに注目事例を紹介します。
 
 
参考>[海外事例にみる企画ヒント編]
高齢者向け健康ベンチャーの注目企業(5月22日配信)
 
 
 
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【1】特集:海外事例にみる企画ヒント編
---「高齢者向け健康ベンチャーの注目企業(2)」
 
【2】健康ビジネスの現場で使えるキーワード
---「購入から登録へ」
 
【3】今週の注目デジクリップ!
---国内 貼るサプリ、使い捨て脳波システムなど、9本
 
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【1】特集:海外事例にみる企画ヒント編
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<テーマ>高齢者向け健康ベンチャーの注目企業(2)
 
 
【今回の紹介事例】
 
1.既存の補聴器にある3つの課題を同時に解決する「Eargo」
2.グループによる継続支援を目指す脳トレプログラム「Brain U」
 
 
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1.既存の補聴器にある3つの課題を同時に解決する「Eargo」
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■企業名:Eargo Inc.
 
■投資金:83.6億円(2018年6月時点)
 
■概要
日本補聴器工業界のデータに基づいた算出では、日本の難聴者人口は1,100万人を超えます。そして、こうした難聴者の大半は加齢性難聴(老人性難聴)によるもので、加齢による聴力の自然の衰え、いわゆる「耳が遠くなる」ケースです。
 
今後高齢者人口が増加する中で、こうした加齢性難聴による難聴者人口はますます増加すると考えられます。
 
その解決手段として代表的なのが補聴器です。補聴器には主に耳穴タイプと耳掛けタイプがありますが、それぞれメリットとデメリットがあると言われています。
 
 
■耳穴タイプ
・メリット:耳穴の中に入れるので目立たない
・デメリット:耳栓をしたような密着感があるため「つけ心地が悪い」場合があります。さらに、“自声の違和感”や“音のこもり”を感じやすく、状況によって「聞きにくい」とされます。
 
 
■耳掛けタイプ
・メリット:比較的多機能で扱いやすい
・デメリット:耳の後ろに引っかけるので補聴器が「目立つ」。また長時間掛けていると邪魔に感じやすい。
 
まとめると、耳穴タイプは「つけ心地が悪い」と「聞きにくい」、耳掛けタイプは「目立つ」と、それぞれ課題があり、これらを同時に解決するものがないため、どちらかを選ばなければなりませんでした。
 
こうした3つの課題の同時解決に取り組んだのがEargo社です。
 
同社は耳鼻咽喉科外科医Florent Michel博士と、息子のRaphael Michel氏の親子によって2010年に設立されました。そして耳鼻咽喉科外科医としての経験から、難聴者にとって「つけ心地が良い」「聞きやすい」、そして「目立たない」補聴器を作ることを目指し、5年の歳月をかけてEargoを開発しました。
 
 
■「つけ心地が悪い」→「つけ心地が良い」へ
Eargoはフライフィッシングで使う毛針(針の周囲に毛が付いた疑似餌)に似た独特の形状をした、両耳に入れる耳穴タイプの補聴器です。この毛針のような突起物は医療用シリコンでできた柔らかく弾力性のある素材で、Flexi Fibersと呼ばれています。
 
このFlexi Fibersのお陰で直接本体が耳穴に密着せず、Flexi Fibersが本体を支えるような形で耳穴にフィットします。その結果、耳穴の中で“浮かんでいる”状態になり、耳栓のような耳詰まり感をなくしました。
 
 
■「聞きにくい」→「聞きやすい」へ
Flexi Fibersにより、耳穴に空気が通り抜ける隙間が生じます。その結果、耳栓をしたときのような“自声の違和感”や“音のこもり”を解消しました。
 
さらに耳穴に隙間があることで、補聴器の音だけでなく自然音も聞き取ることができます。そのことで、加齢性難聴者が比較的聞き取れる「低音域」は自然音として聞き、聞き取りにくい「中・高音域」の音はEargoで聞くことで、よりバランスの取れた、自然な聞きやすさを実現しています。
 
 
■「目立つ」→「目立たない」へ
Eargoは外耳道の中に押し込むような形で装着するので、本体は周囲からほとんど見えません。また受音のレベルは4段階になっており、耳を軽く2回たたくことでレベルを調整できるため、音調調節のために人前で取り外す必要がありません。
 
このように、耳穴タイプの「つけ心地の悪さ」、「聞こえにくさ」、耳掛けタイプの「目立つ」という3つの課題を同時に解決するという新しい発想から、新たな価値を生み出しました。
 
 
■価格:1,950ドル
 
■紹介動画
 
 
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2.グループによる継続支援を目指す脳トレプログラム「Brain U」
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■企業名:SMART Brain Aging
 
■概要
認知症の手前の段階の人は、英語では、MCI(Mild Cognitive Impairment)、日本語では「認知症予備軍」「軽度認知障害」とも呼ばれ、日本国内に400万人いるとも言われています。
 
そのような認知症予備軍に向けて、様々な脳トレアプリや脳トレプログラムが開発されています。その多くはタブレットやパソコンに向かい、脳トレクイズを一人で取り組むものです。
 
しかし、継続支援という視点で見ると、一人で脳トレアプリに取り組むだけでは新しい刺激や動機付けを得にくいため、「長続きしない」「途中で飽きてしまう」といった課題があります。
 
その課題に対し、グループで取り組むという継続支援の新たなサービスを提供しているのが、SMART Brain Aging社です。
 
同社は早期認知症のアセスメントと診断を専門とする臨床神経心理学者John DenBoer博士によって2016年に設立され、MCI(軽度認知障害)や認知症初期段階の患者向けの脳トレプログラム Brain Uを提供しています。
 
同プログラムは認知症を治療するものではなく、記憶力や注意力、集中力を訓練し、脳の認知機能の改善や認知症予備軍の認知機能低下を遅らせる効果をうたっています。
 
 
■メソッド
まず、アセスメントを行います。アセスメントでは、認知機能テストと社会性や関心事を探るパーソナリティテストの2種類を行います。
 
そして、プログラムでは1から6までのセッションを順番に実施します。各セッションでは数字や文字、音声などを使った様々な問題が出題され、記憶力、注意力といった様々なスキルを訓練します。
 
 
■継続支援
脳トレプログラムには対面式とオンライン式があります。対面式の場合は専門の訓練を受けたBrain Uコーチの指導の下に上述のトレーニングを進めます。
 
オンライン式の場合は、毎週セッションごとの問題が送られてきます。それを一週間に数回行い、クリアーしていきます。
 
また、オンライン式では受講スタイルを選択できます。最初のアセスメント終了後、一人で学習する「個人方式」、友人や家族など特定の人と共に学ぶ「グループ方式」、そしてアセスメントの結果から同レベルの人が自動的に選ばれて構成される「クラス方式」を選ぶことができます。
 
基本的に自由に選択できますが、同社は「グループ方式」または「クラス方式」を強く勧めます。それは他者との関わりがあることで、継続意欲が高まることと、社会性やコミュニケーション力が育まれること、さらに趣味や好きな話題をやり取りすることで、プログラム以外からも適度な刺激を脳が受けるからです。
 
「クラス方式」は4人から6人程度の少人数のメンバーで構成され、お互いのエクササイズ達成状況が分かるようになっています。そしてメンバー間で“達成おめでとう”や“励ましのマーク”を送ったり、ショートメッセージを送信したりできます。
 
このように複数人で行う「交流」の要素を取り入れた継続支援サービスになっています。
 
※参考
 
 
■金額:29.99ドル/月(オンラインプログラム)
※個人方式、グループ方式、クラス方式すべて同じ価格
 
 
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3.2つの事例の特徴
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今回一つ目に紹介したEargoは、テーマが「難聴」。そして、既存品の当たり前の不満に着目し、不満を同時に解決し、魅力的な価値を創出しているものでした。
 
また、二つ目に紹介したBrain Uは、テーマが「MCI(認知症予備軍・軽度認知障害)」。そして、最大の特徴は、複数人で交流しながら実施することにより継続を強力に支援するというものでした。
 
日本の高齢者向けのビジネスの成功事例の代表として、カーブスがあります。カーブスも「格好を気にしないで、短時間運動で痩せる」という魅力的な価値と、「ヘルスコーチによる充実した継続支援」を行っています。
 
・魅力的な価値の創造
・高齢者に合った継続支援
 
というキーワードは、高齢者向けの健康ビジネスの企画づくりのキモになります。
 
【脇本和洋】
 
 
 
●MCI(軽度認知障害・認知症予備軍)向けサービス事例が豊富
今号でも事例としてでてきたMCI。国内でのMCI市場の概観・方向性・展望・ビジネス事例をまとめたレポートがシード・プラニング社より発刊されています(スポルツも共同で編集)。是非ご覧ください。
 
・MCI(軽度認知障害)関連サービスの現状と将来展望 2018
 
 
 
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【2】健康ビジネスの現場で使えるキーワード
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≫≫≫「購入から登録へ」
 
コネクテッド経済が加速度的に拡大していく中で顧客との関係性づくりは購入を起点とした従来型から継続関係性(サブスクリプション)型マーケティングにシフトしていく。
 
 
 
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【3】今週の注目デジクリップ! <9クリップ>
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[1]NECとFiNC、人間の歩行に着目したウェルネス・ソリューションを共同開発
NECの先端IoT技術とFiNCの法人向けウェルネスサービス「FiNC for BUSINESS」を組み合わせた、新たなウェルネス・ソリューション。2019年の提供開始に向けて、2018年10月からNEC社内で実証実験を実施。(2018/06/06)
 
[2]ドコモ・ヘルスケアとDeNAライフサイエンス、毎日のウォーキングでdポイントが貯まる歩数計アプリ「歩いておトク」とOisixがコラボツアーを開始
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[3]コスメディ製薬、日本初の貼るサプリメント「貼るラボ」新発売
独自の経皮吸収技術を用いたシート貼付型サプリメント。経口摂取の場合、口にしてから4時間程度で代謝され体外に排出されるが、「貼るラボ」の場合は24時間かけてゆっくりと持続的に吸収される。(2018/06/07)
 
[4]ネオレックス、クラウド勤怠管理システム「バイバイ タイムカード」で笑顔認識機能を提供開始
笑顔を讃えるタイムレコーダー。「バイバイ タイムカード」のiPad向けタイムレコーダーアプリで、出勤時(打刻時)の笑顔を認識し、讃え、記録する機能を無償提供。(2018/06/08)
 
[5]富士通総研、オピニオン「ヘルスケア市場での大きなビジネス構造変化ーこれからのビジネスを考えるー」
今ヘルスケア業界では、どのような事業構造変革が起き、今後広がる市場に対してどのように取り組んでいくべきか。新たに創出されているビジネス事例などを見ながらこれからのビジネスを考える。(2018/06/11)
 
[6]LINE、専門家にトーク上で直接相談できる「トークCARE」がスタート
恋愛・美容・ダイエットなど様々なジャンルの専門家と「LINE」のトーク上で直接相談することができるサービス。チャットとLINE電話の2つの方法で、24時間いつでも好きな時間に相談することができる。(2018/06/11)
 
[7]日本計画研究所、保健医療領域におけるビッグデータ/AI活用に向けて加速する政策動向をふまえた市場予測と事業展開の在り方
開催日は2018年7月12日(木)。今後の医療分野における「次世代型保健医療システム」の一翼を担うビッグデータ・AI技術の動向と課題について詳説。
 
[8]MemoryMD、使い捨て脳波システム『NeuroCap』がFDAの認可を取得
『NeuroCap』は、2月に承認された『NeuroEEG』と共に、患者を治療する臨床医のために脳波検査の便利なアプローチとして提供する準備をしている。(2018/06/07)
 
[9]mHealthWatch注目ニュース:『ルナルナ』アプリが1,200万DLを突破ー移り変わる女性のニーズをキャッチー
利用者を取り巻く環境や課題の変化をしっかり見ながら、サービスも進化させて対応させていくスタイルこそが『ルナルナ』の成功の要因の一つだと言えます。これからも『ルナルナ』の進化には注目です。(2018/06/18)
 
 
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