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 海外ユニーク事例編:ヘルス2.0を積極導入する製薬企業「UCB」

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昨年から続けて紹介している、患者・健康消費生活者の体験情報を集合知
にし、新しい価値を提案する「ヘルス2.0」という動き。

今まではウェブ単独でサービスを展開する企業を中心に導入検討がなされて
きましたが、いよいよリアルの医療・健康ビジネスを提供している企業も、
この動きに注目し、その活用を模索しています。

今回は、医薬品メーカーがこの「ヘルス2.0」の取り組みを導入した事例
として、ベルギーの製薬企業「UCB」を紹介します。

同社は、てんかん患者(及び家族)に対して、

・体験者情報共有サイト「PatientsLikeMe」
・てんかん財団と組んだメンタープログラム

を使って、集合知としてのてんかん患者体験情報を提供しています。

自社の研究開発に役立てるとともに、その情報を使い医師との関係性を深め、
継続的な商品の利用を促進する取り組みとなっています。
したがって、慢性患者に対して継続的な医療を提供している企業(医薬品、
医療機器、薬局など)にとっては、特に参考になる事例です。


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企業概要
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■企業名:UCB
http://www.ucb.com/

■設立:1928年
■本社:ベルギー

■ミッション(表記):難病患者の生活を改善することで、患者を中心とする
グローバルなバイオ製薬企業としてのリーダー的存在を目指す
(UCB aspires to be the patient-centric global biopharmaceutical leader
transforming the lives of people living with severe diseases )

■事業内容:免疫系疾患、中枢神経系疾患に対する医薬品開発及び販売
(てんかんに対する医薬品が中心)

■売上:約3,410億円(3116milユーロ)/2009年

■従業員数:9,000人(40カ国で展開)

■日本支社
http://www.ucbjapan.com/home


■ヘルス2.0的サービス

同社のミッション内に表現されている「patient-centric」にあるよう、
患者を中心にすえた医薬品の開発を行っています。
そこで、ヘルス2.0的サービスとして患者の集合知を活用できる

・PatientsLikeMe
・H.O.P.E. Mentoring Program

を展開しています。


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注目サービス1:PatientsLikeMe
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UCBは2010年、「体験者情報共有型」コミュニティサイトである
「PatientsLikeMe」と提携を開始。
同サイトの中に「てんかん患者コミュニティ」を開設しています。

・病気の進行を予測したい
・治療内容としてどのような方法が最適かわかりにくいので広く情報を
 知りたい

といった患者のニーズに答えるものです。

・PatientsLikeMeのサイト内の「てんかんコミュニティ」
http://www.patientslikeme.com/epilepsy/community


■コミュニティの特長

「てんかんコミュニティ」では、患者のプロフィール(年齢、病気年数など)
とともに、対策、周辺症状について、コミュニティ参加者全体の定量データ
としてみることができます。それにより、病気の進行を予測したり、対策を
見直すことができます。

・対策の定量化データ
http://www.patientslikeme.com/epilepsy/treatments

・周辺症状の定量化データ
http://www.patientslikeme.com/epilepsy/symptoms


■コミュニティの運営の狙い

UCBは、同サイトと提携することで、自社の研究開発に役立てる患者データ
を取得しています。

・PatientsLikeMe提携の狙い
http://www.patientslikeme.com/partners/9-ucb


※ヘルスビズウォッチバックナンバー(Patientslikeme)
http://www.healthbizwatch.com/hbw/global/contents/249.html


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注目サービス2:H.O.P.E. Mentoring Program
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また、UCBは、Epilepsy Foundation(全米で唯一のてんかん患者だけを
対象にした団体。全米に60以上の支部あり)に対して、てんかん患者が
他の患者をサポートするメンタリングプログラムを推進しています。

患者の、

・具体的な治療(継続できない時の克服法など具体的な工夫)について詳しく
 知りたい

というニーズに対応するものです。


■メンタリングプログラムの特長

「H.O.P.E(Helping Other People with Epilepsy) Mentoring Program」は、
てんかん患者(家族)が、その経験を生かし、他の患者やその周囲を助け、
アドバイスするプログラムです。

最大の特長は、メンターとなってアドバイスする内容に基本単位(切り口)が
決まっていて、その内容が集合知として蓄積されていくことにあります。


【メンターになる資格】
・自身がてんかん患者、もしくは家族がてんかん患者であること
・財団規定のてんかんの教育を受けていること

【アドバイスする内容(プログラムの4つの基本単位)】
あくまで自分の体験をベースにして、以下のことをアドバイスします。
下記の4つが一つの基本単位(切り口)になり、知恵が蓄積されていく
しくみです。

・てんかんと発作(症状)
・病気が与える影響(周辺症状)
・支援者とセルフ・マネージメント(家族とのあり方と対策)
・高齢での発作(対策)


※メンタリングプログラムの概要
http://www.epilepsyfoundation.org/programs/hope.cfm


■H.O.P.Eメンタリングプログラムを提供する狙い

実際の患者でしかわからない具体的な治療の知恵(工夫)を収集し、研究開発
にいかすとともに、その情報を医師へ提供し、医師との関係性をより太くする
ことを狙っていると考えられます。


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スポルツの視点
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■今回は、リアルの医療ビジネスを行っている企業がヘルス2.0(体験者情報
の価値化)を活用している事例として、「UCB」を紹介しました。
以下では、リアルの医療・健康企業がヘルス2.0(体験者情報の価値化)を
活用する際の方向性をいくつか示してみます。


■製薬企業の場合のヘルス2.0の活用

・今回紹介した「UCB」がこれほど患者情報にこだわるのは、同社の医薬品
が、患者数のあまり多くない疾患を対象としているため、患者情報が極めて
研究開発に重要だからです。

・また、一つの方向性として、MR経由で医師に集合知としての患者情報を提供
する方法があります。医師でもつかみにくい患者情報(具体的な対策と結果の
関係)を提供することで、医師に対するMRの存在価値を高めることができる
可能性があるからです。

・慢性疾患の患者が適切な対策をとり、症状が維持できればそれだけ医薬品を
使う期間も長くなり、売上の拡大につながります。


■健康関連食品企業の場合のヘルス2.0の活用

・エイジング、ダイエットや生活習慣病の改善などをテーマにした食品を提供
している企業でも、付帯サービスの一つとしてヘルス2.0の活用は新しい価値
の提供として可能性があります。

・ただし、ヘルス2.0は生活者が積極的な生活習慣の改善を行うことを強く推進
するので、それにより自社の食品の売り上げに影響を及ぼさないように、改善
後の維持に貢献できる食品を事前に開発しておくことが重要になります。

(弊社メルマガで紹介したことのある、「Medifast社」は改善後の維持期に
注目した商品を提供しています)


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