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【海外ユニーク事例編】「プロモーション(広告戦略)」の効果的あり方
- ウェイトウォッチャーズの広告トレンドに見るヒント -
 
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こんにちは。株式会社スポルツの脇本和洋です。
 
本メルマガの「海外ユニーク事例編」では、毎月1回特定のテーマで海外の健康ビジネス動向を紹介しています。
 
今回のテーマは、
 
「プロモーション(広告戦略)」です。
 
分析対象は、世界最大のダイエット企業である「ウェイトウォッチャーズ」。最初に、同社の事業概要を紹介した後、広告戦略を
 
・上場後、第一次成長期(2001年-2005年)
・第二次成長期(2006年-2012年)
・低迷期(2013年-2014年、現在)
 
の3つに大きく分けて、チェックしていきます。
 
 
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「ウェイトウォッチャーズ」の事業概要
 
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■企業名:Weight Watchers International, Inc
 
・設立:1963年
・上場:2001年
・売上:1,479milUSD(2014年)(1ドル=100円として約1,479億円)
 
 
・ターゲット:約50ポンド(約20キロ)以上やせたい人が中心
 
・同社のダイエット法(メソッド):ポイントプログラム
「日常食の選択力が身につく」ことを狙いにした食事中心のダイエット法。1日の食事の持ちポイント(体重、年齢などにより算出)内であれば何を食べてもよいというもの。
 
・サービス
 
1)ダイエットセンター(施設)
ポイントプログラムを実践する人が集まり、グループリーダー(プログラム成功者で同社の教育を受けた人)から知恵を学び、参加者同士でモチベーションを高め合う場
 
2)ウェブ(モバイル)サービス
ウェブ(モバイル)を使って「ポイントプログラム」を習慣化したい人向けのサービス。食事ポイントが検索でわかる「食事のデータベース」が、スマートフォンなどモバイルで使える
 
3)商品販売(食品、ガイドブック、体重計など)
 
4)ライセンス他
 
5)新サービス:パーソナルコーチング(2014年12月スタート)
電話による一対一のコーチング・セッションとメールでやり取りし、カスタマイズされたアクションプランで行う。必要時に自由にコーチに連絡し、相談できる
 
 
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上場後、第一次成長期(2001年-2005年)の広告戦略
 
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■売上
・2001年:623億円
・2005年:1,024億円
 
■企業として置かれていた環境
・同社はもともと、女性向けダイエットセンターを中核としたビジネスを行っており、ダイエットセンターでの集客を世界でさらに伸ばそうとしていました。
・当時、同社のダイエット法(メソッド)と、ダイエットセンターのプログラムは極めて独自性が高いものでした。
 
■売りたかった商品・サービス
・ダイエットセンター
 
■売りたかった商品・サービスの「提供価値」
・単にダイエット法が学べるだけでなく、仲間とわいわい会話を楽しめる
 
■ターゲット
・当時は、ダイエットセンターのターゲットである女性の間で認知率を高めている最中であり、同社のダイエットセンターに「関心のない人」もまだ数多くいたと予想されます。そこで女性にまず、関心をもってもらう必要がありました。
 
 
■当時の広告表現(例)
 
・デパートなどの更衣室のカーテン広告
更衣室という、自分の体を意識しやすい(不安を意識しやすい)場所であり、カーテンの開閉を使って「ビフォーアフター」をイメージさせています。
 
・ドアのイメージ広告
ドアは体がぶつかったりして自分の体を意識しやすい(不安を意識しやすい)場所であり、ドアの大小により「ビフォーアフター」をイメージさせています。
 
 
■広告表現の要素(ポイント)
 
当時の同社の広告からは、「同社への関心をもってもらう」ために
 
・自分の体を意識しやすい「将来への不安」を感じさせる
 
・ユーモア(え、なにそれと思わせる工夫)
 
・ビフォーアフター
 
といった要素を使って表現していることがわかります。
 
 
 
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第二次成長期(2006年-2012年)の広告戦略
 
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■売上
・2006年:1,223億円
・2012年:1,827億円
 
■企業として置かれていた環境
当時同社のダイエット法と、ダイエットセンターのプログラムは極めて独自性が高く、それが保たれていました。そこに、モバイル環境(スマホ)の普及が重なり、モバイルサービスは大きく伸ばしました。
 
また2010年10月、今後の飛躍のために、長年手を付けていなかった「メソッド」を自ら先手をとって見なおしました(Pointplusという野菜果物はゼロポイントとした簡易なメソッドにしました)
 
■売りたかった商品・サービス
・モバイルサービス(ウェイトウォッチャーズ フォー メン=WW for men)
 
■売りたかった商品・サービスの「提供価値」
・外出先で自分の食べた食事のポイントがわかり、簡易に記録がつけられる
 
■ターゲット
 
・モバイルサービスは、ダイエット意識はあるも、なかなか行動できない「ビジネスマン」がターゲットでした。
 
・ただ、「食事中心で女性向けダイエットセンターのイメージが強い同社のダイエット法」が、男性に受け入れられるかが大きな課題でした。
 
■当時の広告表現(例)
 
そこで用意したキャンペーンが、「Loosing like a Man」(「男の中の男」のように痩せる)。元NBAバスケットプレイヤーであり男らしさを売り物にするチャールズバークレー氏を起用。実際に同社のダイエット法で痩せた姿をテレビ、ネット広告などで提示し、モバイルサービスの拡大に大きく貢献しました。
 
・ポスター(ウェブ)広告
 
・CM動画
 
 
また当時、男性の好きな食シーン(ビールを飲む)で、同社のダイエット法である、「ポイント内であれば、何を食べても飲んでもよい」という価値を、男性向けにアピールしたものも用意していました。
 
・(ウェブ)広告
 
 
 
■広告表現の要素(ポイント)
 
当時の同社の広告からは、「やる気はあるもダイエット行動はしにくい」という男性に対して、
 
・あこがれ
 
・ダイエットメソッドの価値(食シーン)
 
といった要素を使って表現していることがわかります。
 
 
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低迷期(2013年-2014年、現在)の広告戦略
 
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■売上
・2013年:1,724億円
・2014年:1,479億円
 
■企業として置かれている環境
・同社のダイエット法(ポイントプログラム)とよく似た無料レコーディングアプリを提示する「Myfitnesspal」が全世界で8,000万人を確保し、同社の会員の流出が進んでいます。
 
■売りに出す商品・サービス
・パーソナルコーチングサービス(コーチングが個々に受けられるサービス)
 
■売りに出す商品・サービスの「提供価値」
・コーチに見守られながら痩せる
 
■ターゲット
 
・過去に、「ダイエットセンターに通っていた女性」「モバイルサービスを受けていた男性」で、同社から退会した人を呼び戻したいことがまずあります。
 
・無料カロリー記録アプリ「Myfitnesspal」では、長く続かないこともあります。そこを手厚い人的サービスができることで呼び戻したいのです。
 
 
■広告表現(例)
 
・ダイエット法(メソッド)自体に独自性を失いつつ、同社にとって訴求するのは、パーソナルコーチングサービスによる人的な価値です。ただ、その価値がどのようなものか、今迄と違う「新しい価値」があるかどうか、ここを直観的に訴求できるかがポイントになります。
 
・そこでCM動画では、食べるという行為は、人が嬉しいとき、悲しいとき、暇なとき、誰かと一緒にいるとき、退屈なときなど、様々なシチュエーションや感情と複雑に関連していて、単に空腹だから食べるわけではない、という点を強調。この複雑な「感情と食べる」という関係を理解し、サポートしてくれるのが同社のパーソナルコーチングサービスだ、と訴えています。
 
 
・私たちって、こんな誘惑の多い環境で生きているのですね
 
・こんな環境の中、コーチがサポートします
 
 
■広告表現の要素(ポイント)
 
同社は、ここ数年の低迷の原因の一つに「広告戦略」があると考え、2014年4月に広告会社を見直し、「McCann Erickson」から「WIEDEN+KENNEDY」社に変更しました。そして、これからの訴求のポイントを「emotional benefit(情緒的価値)」と設定しています。
 
2014年末からスタートしたこの広告キャンペーンのテーマは「Help with the Hard Part」。これまではセレブがスマートに痩せた姿をかっこよく写し、ダイエットはおしゃれなこと、誰でもスマートに痩せられるというイメージをアピールしていました。
 
今回のキャンペーンは大きく方針転換し、ダイエットは誰にとっても生易しいものではない、大変なこと、という現実直視型のイメージへ変更し、そこを「コーチ」がなんとかするという訴求をしています。
 
同社は今まで、ダイエット法(メソッド)で独自性を維持してきましたが、それが難しくなった今、パーソナルコーチングサービスをいかに訴求できるか、それがこの広告に現れているということです。
 
企業として置かれている環境をよく把握し、
 
 
・サービスの中身ではなく、「新しい価値」を情緒的にイメージで示す
 
ということが今、重視されている要素です。
 
 
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健康業界の共通課題「プロモーション(広告)」の効果的なあり方
 
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今回は、健康業界の共通課題「プロモーション」の中でも「広告」という切り口で、米国の成功事例である「ウェイトウォッチャーズ」を分析しました。
 
プロモーション戦略は、広告だけでなく広報、人的販売(口コミ含む)などを合わせて行うもので、その全体の立て方がまず第一です。それが決まった後の広告戦略としては、
 
企業として置かれている環境(今どこに独自性があるか)
今売りに出す商品サービス
その価値
ターゲット(無関心な人か、関心があるも行動できない人か、いったん離れた人か、など)
広告表現の要素検討
広告表現
 
 
という順で考えていくことが大切になります。
 
特に、価値の把握、ターゲット理解、さらにそれに合わせた広告表現の要素検討があって、はじめて広告表現を検討するという進め方が望ましい姿です。
 
 
 
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