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2014.6.5
Marimo5 Co., Ltd. CEO
Thai Health Promotion Foundation
Happy Workplace International Project ディレクター
大和 茂 氏

タイで面白いソーシャル健康プロジェクトが立ち上がっているという話を株式会社リンケージの木村大地社長から聞いた。日本でのデータヘルス、コラボヘルスなどコーポレイトヘルスにとってヒントになると思い、その活動をリードする大和さんに話を伺った。
プロフィール
大和 茂[やまと しげる]
1978年生まれ。株式会社NTTドコモを経て、タイにMarimo5 Co., Ltd.を設立すると同時に、タイ政府の専門機関であるThai Health Promotion Foundation公式プロジェクト責任者に就任。タイでは、2007年から約5年間駐在員として働く一方で、チュラロンコン大学労働経済学修士課程を修了。帰任後は、ネットワーク型健康管理サービスを中心としたICTヘルスケア事業の海外展開等に従事。また、職場健康づくりと企業成長の関係性を研究すべく、早稲田大学スポーツ科学研究科博士課程に在籍中。

従業員の健康促進こそ、企業の成長に必須!

大和さんがタイヘルスの活動に出会った経緯について伺った。
 
「2007年からの約5年間、駐在員としてタイ(バンコク)に赴任していたのですが、その駐在中に、現在のビジネスパートナーであるChange Fusion Institute代表のSunit Shresthaを通じてタイ国民の健康増進を一手に担うタイ政府の専門機関『Thai Health Promotion Foundation(通称:タイヘルス)』において『Happy Workplace Program』を開発し、産業医でもあるDr. Chanwit Wasanthanaratと出会いました。2_logo.jpg 当時、私自身の働き方や赴任先の会社をより強い組織にするにはどうすべきなのか、という自分なりの課題にぶつかり、もがき苦しんでいたため、Dr. Chanwitとの出会いは自分の人生を大きく変える印象的な出来事でした。
私がタイに赴任した当初、赴任先企業の事業は、とても激しい市場競争に突入しており、財務的にも非常に厳しい状況下にありました。私の任務は、赴任先企業の収益構造を立て直すと同時に、タイをはじめとする東南アジアに事業を拡大していくことでした。
 
最初の1年目は、がむしゃらに働きましたが、タイにおいて外国人である私一人が頑張ったところで、できることは限られており、タイ人の現地社員と協力して事業を推進していくことは必要不可欠なことでした。ならば彼らが、働きやすい、働き続けたい、と思える会社(組織)になれるか否かが重要ではないかと実感したのです。
 
当時、私は駐在員として働くと同時に、バンコクにあるチュラロンコン大学の労働経済学修士課程に在籍し、平日昼は仕事、平日夜と週末は授業や論文執筆という日々を過ごしていたのですが、ある授業の中で新興国における乳幼児致死率を議論していた際に、教授が次のようなことを述べました。『新興国において教育水準が高い母親の子どもの致死率は低い傾向にある。つまり、健康に育つ確立が高い』。そして『健康な子どもは、そうでない子どもよりも、その国の成長に寄与する可能性は高い。よって、母親の教育水準を高めることは非常に重要である』。
 
私にとって、これがブレークスルーとなりました。
 
もちろん、子どもと多くの場合成人である従業員は同じではありませんが、この日を境に従業員の健康促進こそ企業の成長に必須の要素である、と確信を持ち、どのようにすれば従業員を健康にすることができるのか、という視点を持つようになりました。このような問題意識が高まる中でのDr. Chanwitとの出会いだったため意気投合し、現在のプロジェクトへと繋がっています」
 

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「Well-Being」の概念が大事

タイヘルスの今までの活動で苦心されてきた点を伺った。
 
「一番のやりがいでもあり難しい点でもありますが、タイで事業を行う外資系企業、特に外国人経営者などにタイの国民性や文化に基づくタイにおける『Well-Being』という概念を浸透させていくことだと思います。Happy Workplace Programにおいても多分に反映されていますが、タイヘルスは『Well-Being』を下記4つの角度から捉えると同時に、アプローチが必要だと考えています。
 
1.Physical
2.Mental
3.Spiritual
4.Social
 
日本でも身体的な健康に加え、メンタルヘルスの重要性は認識されてきていると思いますが、タイにおいては国民の多くが仏教を信仰していると同時に、タイ南部では、イスラム教を信仰している人も多いなど、宗教は非常に身近で重要です。つまり、何かしらの形で信仰している宗教に関わり、心の中に安定的に宗教が存在することが重要であると同時に『Well-Being』の大きな構成要素であると考えています。
 
また、社会的な関係性も重要視しており、家族や地域社会との良好な関係無くして、人間としての『Well-Being』は成し得ないとも考えています」
 

タイ人マネジメントと外国人マネジメントとの架け橋に

Happy Workplace International Project、立ち上げの目的は?
 
Happy Workplace Programは、上述したタイヘルスのDr. Chanwitが中心となり2003年に開発した職域ヘルスプロモーションプログラムの名称です。
 
タイヘルスは、同プログラムを約10年かけて推進してきたこともあり、タイ国内においては、2,000以上の組織(企業、官庁、大学、寺院等)で導入されるなど、認知度を高めつつあります。しかしながら、年々増え続けている在タイ外資系企業におけるHappy Workplace Program導入は、未だ限定的です。
 
Happy Workplace Programが企業において導入され一定の成果を得るために、タイ人従業員の自発的な参加は必須なのですが、何よりもまずは経営陣がコンセプトを理解し、その重要性に納得をしていなければ社内への浸透は難しいのが現状です。
 
このため経営陣にとってより身近な言語である英語や日本語による丁寧な説明と、経営陣が持つ疑問にしっかりと回答を明示していくというプロセスを専門的に行う組織として、また在タイ外資系企業で働くタイ人、更には、外国人の健康増進を実現すべく、Happy Workplace International Projectは、タイヘルス公式プロジェクトとして発足しました」
 

8つの包括的なアプローチが鍵

Happy Workplace Programのユニークなポイントは?
 
『Happy8』と呼ばれる下記8つの項目から構成されており、これら8つの多面的なアプローチを通して、従業員の身体的・精神的な健康増進及び幸福度向上を目指すのが特徴です。
 
1.Happy Body     心身共に健康な体を作る
2.Happy Soul      道徳心と信頼を培う 
3.Happy Relax    リラックスする時間を持つ
4.Happy Heart    親切心と思いやりを持つ
5.Happy Brain     生涯学習の促進 
6.Happy Money   適切なお金の管理
7.Happy Family   社員の家族にとっても幸せな環境構築
8.Happy Society  充実した社会の実現及び周りの人をいたわる
 
また、上記に7.Happy Familyと8.Happy Societyがあるように、従業員本人の健康や幸福だけではなく、従業員の家族、そして地域社会もHappy8の対象となっていることが特徴です」
 

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各国の文化や国民性を反映したリデザイン

Happy Workplace International Projectの活動を通してどのような可能性が発見できたか?また課題はどんなことなのか?
 
「当初は、日系企業をはじめとした在タイ外資系企業におけるタイ人従業員を主な対象としたHappy Workplace Program導入を考えておりましたが、タイ人従業員は当然のこと、外資系企業で責任者として働く駐在員(日本人等)やタイにおいて現地採用で働く外国人の方の職場健康づくりの重要性も高まっており、状況に応じた柔軟な対応が必要であると認識しています。
 
また、日本をはじめとした海外においてもHappy Workplace Programの反響は大きくなりつつあり、各国の文化や国民性を踏まえた、それぞれの国のHappy Workplace Programを現地パートナーと共に開発していくことも視野に入れています。
 
その実現に向けての課題は、タイにおけるHappy Workplace Programがタイの文化や国民性を踏まえたデザインになっているように、今後展開を想定している国の文化や国民性をあらためて理解したうえで、その国にマッチするプログラムへとリデザインしていく作業が必要だということです。
 
本取り組みを持続的に発展させていくためには、現在のタイヘルスのように本気でミッションを掲げて取り組むパートナーの存在が重要なため、現地パートナーとの想いや、それぞれが描く未来像の共有等には丁寧に時間を割く必要があると考えています」
 

タイから世界へ

Happy Workplace Programの今後のビジョンについて伺った。
 
「タイヘルスのCEOであるDr. Krissada RaungarreeratやHappy Workplace Program開発者のDr. Chanwiとも議論を重ねていますが、まず、タイには、日本企業をはじめ多くの外資系企業が存在しますので、それら在タイ外資系企業の経営陣の方に『Happy Workplace Program』を理解してもらうと同時に、従業員の健康増進と幸福度の向上というコンセプトを経営戦略の一つとして位置づけて、少しでも多くの企業に導入してもらうことを第一の目標に掲げています。
 
もう一つは、『Happy Workplace Program』の国際展開です。とりわけ、タイ企業も進出し始めているカンボジア、ラオス、ミャンマー等は、国境も接していますし、人や企業の流れも活発化してきていますので重要視しています。
 
国際展開の一環で、2014年4月に上海にて開催された『The 2nd Global Healthy Workplace Awards and Summit』に参加し、Happy Workplace Programのプレゼンテーションを実施したのですが、8つの多面的なアプローチで健康増進や幸福度向上を目指すという点が斬新だったのか、参加者から多くの質問が寄せられたことは記憶に新しいです。また、グローバルに職場健康づくりを考えるにあたり、WHO(世界保健機関)が提唱する『Healthy Workplace Model』とILO(国際労働機関)が推進する『Decent Work』両方の観点を持ちながら、職場環境を分析することも重要だと考えています。
 
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日本という観点では、多くの日系企業が存在するタイにとって、日本は非常に重要なパートナーであり、日本においても日本の文化や国民性を踏まえた形で『日本版Happy Workplace Program』を開発し、タイと日本の優れた点を混ぜ合わせた新しい職域ヘルスプロモーションを実現できたらと考えています。
 
2014年7月にはHappy Workplace International Allianceを設立すべく準備を進めています。このAllianceへの加盟企業が増え、従業員の健康増進と幸福度の向上が企業経営においてスタンダードになることを目指し、邁進していきます」
 

最後に

日本の企業のワークプレイス向けにメッセージを!
 
「タイ文化や国民性に基づいて開発された『Happy Workplace Program』は、日本人が気づかない、或いは忘れかけている要素を含んでおり、日本のワークプレイスをより良くするためのヒントとなることも多いと考えています。日本においてもタイで生まれた『Happy Workplace Program』の認知度を高めると同時に、新たなタイプの職場健康づくりの仕組みを作っていけたらとも考えています。
 
2014年7月下旬には、タイにおいて最も積極的にHappy Workplace Programを導入している企業の一つである『Western Digital (Thailand) Co., Ltd.』の実際の取り組みを見ていただくための会社見学を予定しております。
 
当日は、タイにおいて経営者としても著名なDr. Sampan Silapanad副社長による同社におけるHappy Workplace Programのプレゼンテーションに続き、約25,000人の従業員を抱える同社の職場がどのようにデザインされ、どのような取り組みがなされているのかを実際に工場見学という形で見学させていただく予定です。
 
もし7月下旬に訪タイの予定がある方で、ツアーへの参加に興味のある方は info@happyworkplace-international.com 宛にご連絡ください」


 
インタビュアー:木村大地+大川耕平
 
[取材日:2014年6月3日]