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2013.6.25
有限会社フットクリエイト
代表取締役 櫻井 寿美 氏

『歩いて健康』をコンセプトにフットケアの専門店として啓発的活動も同時に展開しているユニークなショップが京都にあるフットクリエイトだ。足の健康を保つことが体の健康を維持する一番の方法であると考える、有限会社フットクリエイトの代表取締役 櫻井寿美さんにお話を伺った。
プロフィール
櫻井 寿美[さくらい としみ]
有限会社フットクリエイト 代表取締役 京都府立医科大学院 保健看護研究科 修士課程修了 研究員。専門は高齢者の転倒予防・疾病予防における履物の役割。フットケアの重要性を様々なコミュニティでも広めている。

『足育』『靴育』の必要性

『足育』『靴育』というユニークなコンセプトをお持ちの櫻井さんにまずはその意味を聞いてみた。
 
「健康寿命を延ばそうという政府のキャンペーンがありますが、健康寿命を延ばすためのアプローチにも様々あります。メタボに代表される、内科的なアプローチ同様、筋骨格的なアプローチも重要です。
 
高齢社会では、元気に活動できる期間を少しでも長く継続させることが大切で、それら多様な活動を支えてくれているのが『足』です。
 
国民生活基礎調査によると、骨折、転倒および関節疾患が要介護となった原因の21%となっていますが、要支援だけを取り上げてみると、その割合は32%と増加します。また、これまでの報告では、足の痛みや変形とバランス機能や歩行能力には関連性があるということが指摘されています。
 
高齢者が自立した日常生活を送るためには、健康な足が必要です。しかし足は、生活習慣病同様、長年の生活習慣によって、変形、角質肥厚などの変化が生じ、それらが足のトラブルにつながります。そのため、足を健康に保つため、足の大切さ、足を守る靴の重要性などを理解していただくための活動、『足育』『靴育』が必要であると考えています。
 
足には何の問題も無い人のための足の疾病一次予防から、足病変などの合併症を起こさないための二次、三次予防まで、『足育』『靴育』の担う役割は広範囲にわたり、環境、健康、福祉という切り口で考えるこれからの社会での必要性を多いに感じています」

 

理想的な靴選びの手順とは

理想的な靴の選び方について伺った。
 
「①靴を選ぶ前に、足の正しいサイズを計測、足の特徴を把握する。足長、足幅、足囲や浮腫みやすい足なのか、いつ浮腫むのか、など。
 
②靴選びの目的を明確にする。ファッション的な靴なのか、楽しく歩くための靴なのか。
 
③足の特徴をもとに、目的とする靴を選択し試着するが、必ずその前後のサイズも同時に試着する。また、たとえば外反母趾変形が有る方では、靴の選択の際に関節が当たる部分の革の素材にも注意を払う。(革の厚みや質によっては、あるいはその部分に縫い目があるデザインなどでは関節部が圧迫される)
 
④紐やマジックテープなど甲部で足を固定できる形式の靴では、靴の踵と足の踵をしっかりと密着させ、靴を履いて立ったときに、爪先部に手の親指の幅一本分(1㎝~1.5㎝)の隙間が必要。また、靴を履いたときに、羽の開き具合(紐やマジックテープなどで調節する甲の部分)にも注意を払い、靴に対して足のボリュームが大きく、羽が開いてしまったり、反対に靴に対して足のボリュームが小さく紐を締めても固定できない、などが無いかを確認する。
 
⑤靴を履いて、歩いてみて、靴の踵部と足の踵がフィットしているか、靴の履き口にくるぶしが擦れないか、全体的な圧迫感や締め付けなどがないか、一部に履きしわが寄っていないかなどを確認する」


知識不足が足トラブルの原因に

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きちんとした手順で靴を選ぶことそのものを我々は学んでいないことに気づかされる。櫻井さんもこれには同意であった。
 
「足のトラブルの多くは、足についての一般的な知識や靴そのものについての正しい知識が不足していることに加えて、それぞれの足の特徴を知らずに靴を選んでいることから生じています。
 
私がこの仕事に入ったきっかけとなった足のトラブルも、自分自身の足の特徴を全く知らず、またそんな足に対して必要な靴の知識もなく、単純にサイズや金額だけで靴を選び履いていたことから生じています」
 
 
どうすればもっと足の重要性に気づいてもらえるのか?
 
「私たちの永遠の課題です。反対に教えて頂きたい項目でもあります。
 
動脈硬化を予防するためには、EPAを多く含む魚を食べましょうとか、一日30分のウォーキングが効果的であるなどという報告は数多くありますが、外反母趾の角度が何度以上になると、活動量が減ってQOLが低下するというようなエビデンスが不足していることや循環器系、悪性新生物などのように、生命に直接大きな影響を及ぼすような疾患と違って深刻度が低いことが、足の健康への啓蒙活動が弱いところであると考えています。
 
研究によるエビデンスの積み重ね。これしかないかもしれませんね。日本における靴カルチャーでは、『足のケア』がまだ抜け落ちているように感じています」
 
 

いつまでも歩ける足=歩いて健康

今後のフットクリエイトは何を目指しますか?
 
「正しい知識、情報、裏付けられた報告に基づいて、個々の足をサポートできる身近な存在でありたいと思っています。また、弊社の商品やサービスを利用された方が、足の健康を維持され、結果的に健康寿命の延伸につながることが、私たちの最終的な目標です。
 
ファッション主体の靴を否定するのではなく、その代わりに、きちんとサポートもできるトータルフットケアという視点を基に、『いつまでも歩ける足=歩いて健康』の必要性を訴えていきたいと思っています」
 

 
インタビュー後記:
櫻井さんは、自らの足の課題克服体験がベースとなりフットケアプロフェッショナルの道を歩み始めたという。学術研究とマーケット最前線での顧客接点両方での実践・体験・研究を通じて日本人にとっての靴の明日を紐解いてくれるキーパーソンの一人だと思います。
 
[取材日:2013年6月20日]