写真C.JPG

2015.3.18
マッキャンヘルスコミュニケーションズ 
CKO 西根 英一 氏

『生活者ニーズから発想する 健康・美容ビジネス「マーケティングの基本」』(宣伝会議)がリリースされた。
 
その出版記念セミナーには予定の3倍、300人を超す参加申込みがあり大人気。
その著者西根英一さんに執筆の背景やコンセプトを伺った。
プロフィール
西根 英一[にしね えいいち]
健康・医療・美容のマーケティング戦略とコミュニケーション設計を専門とする。学術研究活動のほか、大学やビジネススクールでの教育機会も多数。千葉商科大学サービス創造学部非常勤講師(健康サービス論、調査法)ほか、「宣伝会議」講師(ヘルスケアマーケティング実践講座)、「女性起業塾」講師など。東北支援「おらほのラジオ体操」発案者、NPO防災のことば研究会 副理事長、EBN推進委員会 立案者兼委員、日本広告学会、日本臨床腫瘍学会の正会員。日本メディカルライター協会、日本医学ジャーナリスト協会の協会員。厚生労働省「すこやか生活習慣国民運動」(健康日本21)の推進室室長などを歴任。

ミュージシャンもヘルスケアに関わることができる!

西根さんは宣伝会議の講師をしながら、ヘルスケアビジネスの領域が拡大していることを参加者の変化から感じていたという。
 
それは企業だけでない。
沖縄を旅していた時、カーラジオから流れてきたポップな曲に心を奪われた西根さん。そのミュージシャンは沖縄のハイパークリエイティブユニットのポニーテールリボンズ(通称:ポニテ)のアンチエイジングという楽曲。
 
“アンチエイジング 誰のため? 誰のために美しく~ ♪”
あまりの衝撃に、CDショップに目的地を変更。
「アンチエイジングください!」。そこで手渡されたのが新譜『VERY GOOD』だった。
 
まさにヘルスプロモーションの楽曲と感じ、1ヶ月後に直接ポニーテールリボンズに会い意気投合。『ポニテと一緒にヘルスケアビジネスを学ぶ』(仮題)の原稿を書き始めたのが本書のベースになっているという。
 
健康とは“不確実”な利益である。
健康であること、美容に邁進することの理由を問われたところで、何のため?誰のため?という目的化が難しい。
 
その答えがアンチエイジングという曲にあった、と感じた。
 

健康の幅は広い!

健康・美容ビジネスという表現がユニークだと感じた筆者がそのことを問うと
 
「WHOが定める健康の定義は『健康とは、身体的、精神的、かつ社会的に良好な状態を指し、単に病気でないとか虚弱でないということではない』ですよね。
 
それから言うと美容も健康です。美しくあるということは精神的、社会的に健康であることに寄与することです。資生堂が老人ホームを訪問し、おばあちゃんに化粧を施し華やいでいくということはあきらかに健康需要に対してのアプローチです。
 
そう考えると美容ビジネスは明らかにヘルスケアビジネスに入ってくると思います。生活者の健康ニーズに応えるドラッグストアは、病気に対処するだけでなく、精神的、社会的に健康であることに寄与するヘルスケア商品であふれています」
 
「医療の世界ではEBM(エビデンスベースドメディシン)という、科学的根拠に基づいて診断・治療しましょうという考え方が日本に根付いて15年くらいになります。今春から始まる食品機能性表示制度は、まさしく日常の食生活のなかにEBN(エビデンスベースドニュートリション)という考え方を提供する機会になります。
 
そして、食品の次は化粧品ではないか?という考え方があります。EBC(エビデンスベースドコスメ)と呼ぶかどうかは分かりませんが(笑)
海外ではドクターズコスメがあります。少なからずビューティーの中にエビデンスという流れはあると思います。
 
確かに、ヘルスケアビジネスの商品開発に“評価”(エビデンス)は大切です。しかし、生活者にとっては評価だけではなく“評判”が重要になってくる。“正しいもの”を買いたいのではなく、“いいもの”を買いたい。評価・評判軸が両輪で動いていかなくてはならないのです」
 

ヘルスケアのビジネスは広範囲な知識が求められる世界

「僕がこのような本を書けるのも、製薬会社で薬学・医学を学び、広告会社でコミュニケーションとマーケティングを実践してきたからこそ。学術知識の正しい理解、そして基盤となるコミュニケーション開発の能力があり、それに加えてマーケティング手法を心得た人がヘルスケアビジネスを成功に導きます」
 
また、ヒトづくりが必要とも言う。
 
「薬剤師向けのセミナーに招かれる機会がとても増えました。大阪で開催された日本薬剤師会の学術大会で『患者さんを医療消費者としてみることの重要性』について話しました。
 
薬剤師がマーケティング的視点を持つことで、患者の治療に対するアドヒアランス(参画率)や服薬のコンプライアンス(遵守率)が上がるので、患者側面だけでなく、消費者側面に注目すべきというアプローチです。
 
最近、殊に薬剤師が人づくりに熱心な気がしています。機能性表示制度に薬剤師の機能が必要になっていく。治療医療だけではなく生活の中にある予防医療に入っていこうという流れがあり、その存在は注目されています。
 
元々学術情報を理解し、対面コミュニケーションもとれるし、ドクターとのBtoBもできる。これにマーケティング要素が理解できれば、そこに患者さんを医療消費者としてみましょうという発想が生まれ、おもしろい存在になっていくと思います」
 
患者に対する治療やリスクをもつ予備軍に対する予防、そして美容のススメ。共通するのは全員が生活者であり消費者なのだという認識に立ったアプローチ、と西根さんは言う。
 
生活者のニーズを前提に、どうコミュニケーションをとるのかが従来型の健康ビジネスには足りなかった。
 
今こそヘルスケアマーケティングを広めなければいけないと筆者も強く感じたインタビューだ。その意味でもこの本はあらゆる健康ビジネス関与者にとってのバイブルになっていくと思われる。



取材後記:
とっても朗らかに取材に応じていただいた西根さん。
彼ならではのキャリアも加わって味付けされたこの本をぜひともより多くの方に読んでもらいたいと思いました。
 
 
 
インタビュアー:大川耕平
 
[取材日:2015年3月11日]