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2013.9.2
新潟県 産業労働観光部 参与
(一社)健康ビジネス協議会 事業戦略ディレクター・企画委員
河合 雅樹 氏

「健康ビジネス連峰政策」という活動をご存知の健康ビジネス関係者は多いと思う。新潟県が推進している健康ビジネス活性化の一連の活動だ。この中で重要な推進役をされている河合さんにお話を伺った。
プロフィール
河合 雅樹[かわい まさき]
新潟県産業労働観光部参与(新産業企画担当)/(一社)健康ビジネス協議会事業戦略ディレクター。昭和48年早稲田大学第一文学部入学。在学中に起業。大企業や自治体の文化事業コンサルタントを経て、平成10年から三菱商事で大企業の新規事業戦略や自治体の新産業コンサルタントを行う。平成17年、新潟県泉田知事の選挙公約の民間登用県幹部職員第一号として新潟県産業労働部新産業企画監に。健康ビジネス連峰政策など県の産業成長分野政策の一翼を担う。平成23年から現職。上記職のほか、新潟薬科大学評議員、早稲田大学自動車部品産業研究所招聘研究員等を兼任。家族は東京に残し新潟と東京の二重生活9年目に。

成長分野として「健康」「福祉」「医療」へアプローチ

健康ビジネス連峰という構想は平成18年よりスタートした。その背景とは?
 
「県内の中小企業が成長分野である『健康』『福祉』『医療』の分野に進出、起業することを応援する政策です。
新潟県に限らず地方の中小企業は、大手の下請けに甘んじていたり、グローバルな市場の変化で国内の仕事がなくなったり、農業や食品産業の付加価値が求められるなど、大きな変革が求められています。
健康・福祉・医療に関する多様な産業界のビジネスを『健康ビジネス』と定義し、自らの資源や特徴を生かしたり、大学や大企業や流通など他企業と連携して新しいことを始めることを応援する新潟県独自の政策です」
 
最近では国の成長戦略でも「医療・健康分野」が叫ばれるようになったことは読者も御存知の通り。
この活動に関して県内企業の反応はどうだったのだろうか?
 
「自分たちのビジネスに関係がなさそうだと尻込みをする企業もいましたが、最初から積極的に取り組む企業が出てきました。新潟県では何度かのモデル事業(選ばれた人たちがファッションモデルのように自分たちの挑戦姿勢を広めてくれる)を経て、多くの人たちが挑戦するようになりました。自分たちで既に手をつけていたビジネスもありましたが、健康ビジネスとして改めて意識することで県の応援も受けやすくなりました」
 
一般社団法人健康ビジネス協議会が平成21年に立ち上がった。この協議会の果たす役割はとても重要と思われる。どんな方針で運営されているのだろうか?
 
「(一社)健康ビジネス協議会は、2年の準備期間を経て昨年の2月に法人化しました。県内外、規模の大小を問わず、健康ビジネスに取り組む企業110社以上が現在加盟しています。健康ビジネスに関わる講師を呼んでのセミナーなど健康ビジネス全体に関する啓蒙活動や新潟県と共同主催の『健康ビジネスサミットうおぬま会議』(過去5回、毎年開催。昨年は東京で開催。今年は11月に東京とうおぬまでダブル開催)の運営をしています。さらに、産業グループごとに、ものづくり部会、食部会、サービス・交流部会に分かれて専門的積極的に活動しています。
 
ものづくり部会では、筑波大学山海教授と連携して未来の介護で必須となるロボットスーツの実践研究、また介護が必要な方の近未来の住空間を提唱するハッピー・エイジング・ルーム・プロジェクトを行っています。
 
食部会では、災害時における健康な食をテーマに、全国の災害関係施設、管理栄養士、大学と連携して、来ることが予想される大型地震で災害時に健康状態を維持するための食のマネジメントの普及活動を商品プロモーションと一体化して行っています。
 
サービス・交流部会では順天堂大学の白澤先生と連携して、温泉旅館における『アンチエイジングツアー』の企画と実践を行っています。回数も重ねて商品化はほぼ完成しており、今後はこれを横展開していく段階です」
 

イメージしたのは松下村塾

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昨年より「健康ビジネス人財育成塾」をスタートした。その目的や展望について伺った。
 
「先に述べた協議会独自事業のほか、昨年から県の事業を受託することとなり、その目玉が健康ビジネス人財育成塾です。
 
数年かけて応援してきた新潟県の健康ビジネスですが、まだまだ大きな成功、例えば売り上げ1,000億円を超えた企業は出ていません。健康ビジネスは消費者ニーズにきめ細かく対応することから、大企業が苦手で中小企業が中心となります。中小企業にはビジネスの人財を自社で育成することは得意ではなく、また資金やノウハウも不足することから今までは行われてきませんでした。
 
今、県内の健康ビジネスで目立った成果を出しつつある企業は10社程度ですが、これが20社、30社、100社と増えていけば、健康ビジネスの裾野はさらに広がります。つまり、あと20名、30名、100名のビジネスリーダーが必要なのです。
 
イメージしたのは松下村塾です。松下村塾では何を教えていたのかはあまり知られていません。調べてみると古典や海外事情のほか、寺子屋のようなこともやっていたようです。つまりカリキュラムはたいしたことはやっていない。むしろあのとき塾に集った者たちが切磋琢磨し合い、そこでの体験がやがて明治のリーダーへと育んでいった。
 
僕たちの人財育成塾も、健康ビジネスがもっと盛んになり新潟県産業の屋台骨となったとき、振り返ると10年前、20年前のあの人財育成塾がきっかけだったなあ、と振り返れるようなそんな塾運営を目指しています」


今後の期待

「安倍政権の成長戦略で、『健康・医療』が掲げられました。実は民主党時代、その前の自民党時代にも『健康・医療』が成長分野として掲げられていました。しかし、それがかつてのエレクトロニクス産業や自動車産業に匹敵するような規模とスピードを持っているかというとそうは見えません。エレクトロニクス産業や自動車産業は頂点に国際的競争力を有する少数の大手メーカーが立ち、その下で下請け中堅企業が、さらにその下でもっと多くの中小零細企業が支える、いわば「富士山型」の構造を持っています。
 
健康産業、健康ビジネスは、消費者の求めるビジネスの種類も数多く、またその市場も一つ一つはそんなに大きくない、いわば『連峰型』の構造を持っていると私たちは考えて政策を実践しています。
 
県と協議会が両輪となって、うおぬま会議など全国の企業、自治体、大学と連携する場をさらに広げることで、一つでも多くの成功例を作り、一人でも多くの同志に伝えていきたいと思います」
 
 
11月11日(月)、12日(火)の二日間、東京神保町の「ベルサール神保町」で、「全国健康ビジネスサミットうおぬま会議2013」を開催する。詳しくはHBWメルマガでお知らせするが、講演、ワークショップ、展示、ビジネスマッチングなど全国健康ビジネス事業者のビジネスチャンスを最大化する日本唯一の健康ビジネス会議だ。昨年は25都道府県から1,000名を超える企業や大学の方が参加した。今年のうおぬま会議で皆様とお会いするのを楽しみにしている。


 
インタビュアー:大川耕平
 
[取材日:2013年8月30日]