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2012.03.29
健康文化創造チーム・グクルLLP
ゼネラルマネジャー  関原 宏昭 氏

今回お話を伺った関原宏昭氏は、2006年にも一度このコーナーに登場していただいている。実に7年ぶりの再インタビューとなった。以前は『にんべんのついた健築家』として医療健康福祉施設の設計に関わりながら、健康のために必要なソフトの重要性を唱えていた。今回は沖縄県の北中城村をホームグランドに『健康文化創造チーム・グクルLLP』を立ち上げ活動している。なぜ、このような方向転換に至ったのかお話を伺った。
プロフィール
関原 宏昭[ せきはら ひろあき ]
健康文化創造チーム・グクルLLP ゼネラルマネジャー
琉球大学大学院観光産業科学科ウェルネス研究分野主任研究員
沖縄国際大学大学院地域文化科地域ケア学非常勤講師

なぜチーム・グクルLLP結成をしたのか?

「どこの地域にも独特な決まり事、目に見えないルールがあり、『いいな!』と思っても進まないことが多い。とりわけ各々のエリア、事業、職域を横断的に動ける『中間的存在』が必要となっています。

健康づくりにおいても制度と地域活動、習慣がリンクしない、もともとある“いい文化”も評価されず消えていくことが多々あります。その”いい文化•習慣”の根本は変えず、時代に合わせて変化させていくことが大切なのではないかと思い、その実践組織を作っていこうと考えました。

8年前に講演会でご縁をいただいた沖縄県北中城村に再訪、新垣邦男村長と懇談した時に『正にそのような取組が必要です!一緒に地域の元気づくりに取り組みませんか?』と、声をかけていただきました。

そこから継続的に“なりわい”となる健康コミュニティの育成、健康づくりのプロチーム『健康文化創造チーム・グクルLLP』を立ち上げることとなりました。因にチーム・グクルの名前は、沖縄の心=肝心(ちむぐくる)にかけた洒落です(笑)」


<健康文化創造チーム・グクルLLP概要>

大学・民間連携による研究成果実践組織で、沖縄で育まれてきた健康文化を調査・分析し、誰もが“豊かな人生”をおくれるように必要な知識の伝達と『住んでいてよかった。出会えてよかった』という意識の調整を行う実践的な事業を推進していく。

キーワード: 地域・元気・コミュニケーション
『一人ひとりの健康は地域の元気へ 〜 健康交流』


チーム・グクルLLPは糖尿病カフェ、血糖値カフェ、更年期カフェ、などユニークな健康交流プログラムを運営していることから、注目を集めている。
 

健康カフェ運営に向けた不安や課題、解決のきっかけ

「“なりわい”にしていくには、措置や制度の上だけで行われる事業から脱出することでした。地域における先駆的な例は見当たりませんでした。しかし、行おうとしていることは地域において必要とされていることばかり。“お金はあとからついてくる”と根拠のない自信を持ち、一番に考えられる経営的な不安に目をつむり、ともかく進んでいくことにしました。

実際に始めてみると、日々の来店はゼロ行進の状態でした。健康づくりそのものがまだまだ無料サービスと認識されていましたので、参加料の価格設定すら自信がありませんでした」

スタートはかなり厳しい状況だったとのこと。では、何をきっかけに認知が広まったのだろうか?

「曜日や時間、対象等あれこれアプローチを変えてみましたが想定どおりにいかず、ぼんやりと地域の動向を眺めていました。そんなとき、おやっ?と思ったのが『健康弁当』をつくり、配達を始めた頃でした。

当初はおしゃれで、健康的なランチを出して、健康・文化イベントをやれば人は来てくれるはずと思っていました。しかし、大量の売れ残りが続き、健康事業とは程遠く、頭はカフェ経営のことでいっぱいでした。チームメンバーは、保健師、管理栄養士、調理師、広報企画と専門職の軍団。カフェ経営などやったことのない素人です。“こんなはずじゃなかった”と退職者が続き、メンバーは固定しませんでした。

“いいことをやってるのだから”と何とか伝えたい、届けたいと始めたのが『健康弁当』でした。少ないチームスタッフで弁当づくりから配達まで行うことは、簡単ではありませんでしたが、弁当配達から徐々に反応が現れ、Web上のアクセスと全く違った双方向の顔が見える関係が出来始め、地域のお客様がカフェに、イベントに足を運んでくれるようになりました。

その頃、地区自治会様や社会福祉協議会様との連携も深くなってきていました。我々のスタッフ(専門職)が一地域のメンバーとして走り回っている姿を見て「地域のために頑張ってくれている」と共感していただき、ボランティアでカフェ、弁当配達の応援に駆けつけていただいたりするようになったのです」

“サービスを用意して待つ”から顧客のところに“『健康弁当』を直接届け、体感してもらう”ことで、チーム・グクルLLPの健康サービスの価値の一端をはじめて理解してもらうことができたのだろう。
 

糖尿病カフェの開発コンセプト

「弁当とカフェが回りだしたことで、本来の健康事業を実践できる環境が整い、次に始めたのが『糖尿病カフェ』『血糖値カフェ』等の企画です。

以前は健康沖縄と言われてきましたが、実は糖尿病が原因となっての死亡がいつの間にか全国トップになっていました。以前は一番少ない地域でしたが、深刻な問題となってきていました。しかし、地域の人は医療機関に相談に行くでもなく、自分がどのような状態か知るきっかけすらありませんでした。そこで、日々の生活が、どれだけ発症しやすい環境にあるかを伝え、自分で予防してもらうきっかけを与えようと考えました。

ネーミングは分かりやすく『糖尿病カフェ』『血糖値カフェ』としました。恥ずかしくなるような“ベタ”な名前ですが、こちらも格好つけずにいこうと思ったのです。実際に訪れた方と話し始めると、分かりやすくしたのは効果的だったようです。私達が何をしたいのか?どうありたいのか?がはっきりと伝わり始めました」
 

チーム・グクルLLPモデルの可能性

最近、チーム・グクルLLPのユニークなビジネスモデルを詳しく知りたいと思う人(事業者や自治体など)が増えたと聞く。他の地域での可能性はあるのだろうか?

「どのような地域でも、住民の健康、幸せがあってこそです。地域の問題も北中城村だけではなく、どこでも似たようなものでしょう。一つの村(人口16,500余人の地方の田園地区)で『健康コミュニティ』なるものが生まれ、活動が始まった訳ですから“うちの地域でも出来ないだろうか?”と考えた方々から声がかかったようです。

チーム・グクルLLPが自ら他の地域で活動するかどうかは、地域の元気、日本の元気にお役立てできるのであれば望むところです。とりわけ同じ方向を向いた、地域、コミュ二ティ、店舗のネットワーク、住民の回遊につながることは、多面的に見ても“元気”が増幅されると言えます」
 

今後の展望

チーム・グクルLLPの取組は、地域における健康スコアを上げ、予防活動の具体化、継続による医療費削減効果も出てくると思われる。この辺りを周知していくためにはエビデンスづくりが大切になる。どのように考えているだろうか?

「例えばダイエットで“計るだけダイエット”は、一人ひとりの意識に定着してきました。次はそれを続けていくための“仲間づくり” “コミュニティづくり”だと考えます。お酒をやめなくても、運動をしなくても、意識の調整で健康への行動変容はおきています。実際に毎週血圧をはかり続けているグループの安定している数値と行動もまとまっており、医療費の低減につながっている要因の一つと考えられます。他のグループとの比較分析をした上で、学会等で発表していきたいと考えています。

またエビデンスづくりと並行して、チーム・グクルLLPも次のステップに進もうと思っています。それは健康を中心としたクラブ組織づくりです。1993年に『100年構想』でサッカーJリーグが始まり、地域にしっかり根付きました。健康そのものに基軸をおいた倶楽部が定着することは、決して夢物語とは思いません。『地域・元気・コミュニケーション』をキーワードに各々の地域に相応しい、色とりどりの元気倶楽部が育まれ、健康交流が活発になることを実現できればと思います。ズバリ、テーマは『健康交流』です」

チーム・グクルLLPが展開しているビジネスはソーシャルヘルスをつくる、今後キーとなる事業だ。もっと言えばヘルシーコミュニティ開発事業ということになっていくであろう。今後も注目していただきたいサービスモデルである。

[ 取材日:2012年3月9日 ]