キーパーソンに聞く

2010.07.27号 入力の手間を最小限に抑えた食事記録

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2010.07.27
FoodLog
東京大学 相澤清晴 教授/
foo.log株式会社 代表取締役 小川誠 氏

携帯電話やデジカメで撮った写真をアップロードするだけで食事の記録と解析が行えるFoodLogは、入力の面倒さから続かないことが多い食事記録サービスにとっては、画期的な存在だ。開発者である東京大学教授の相澤清晴氏と、開発・運営を担当しているfoo.log株式会社代表取締役小川誠氏に、開発のきっかけと今後の展望を伺った。
東京大学 相澤清晴 教授/foo.log株式会社 代表取締役 小川誠[ あいざわきよはる/おがわまこと ]
◇相澤 清晴(写真右)
東京大学 教授
1988年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2001年同大学大学院新領域創成科学研究科教授。現在は、同大学大学院情報学環・情報理工学研究科電子情報学専攻教授(工学部 電子情報工学科を兼務)。映像処理とマルチメディア応用に関して研究に従事。日本IBM科学賞受賞など。現在、ライフログ(人の体験記録)の取得と処理、応用に関する研究、実写3次元映像のための処理の研究、広域サーベイランスなどの研究を行っている。特に、ライフログ研究の一環として、食事に対象をしぼったFoodLogを推進している。
◇小川 誠(写真左)
foo.log株式会社 代表取締役
2005年、東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。博士課程在学中に創業したクアドラングル株式会社の代表取締役に就任し、同社のモバイルシステム開発事業の立ち上げに参画。テレビ東京ブロードバンド株式会社にてジェネラルマネージャーとして上場準備等に従事。2007年foo.log株式会社の代表取締役に就任。インターネット関連事業のほか、人材紹介事業など幅広い分野で新規事業の企画・立ち上げを行い、現在は、食をテーマにしたライフログ事業の立ち上げを推進している。

発想のきっかけは学生の卒業研究

FoodLogは、ある学生の卒業研究がきっかけとなってスタートした。画像処理が専門分野の相澤教授は、当時ライフログ(人間の行いをデジタルデータとして記録に残すこと)に興味を持ってさまざまな実験を行っていたこともあり、学生の指導を兼ねて食事に特化した記録を取る仕組みを構築することにしたという。

「取り組み始めた2007年は、偶然の一致ですが岡田斗司夫氏の『レコーディング・ダイエット』が出版されたこともあって、食事の記録を取ることが注目された時期でもありました。当時は、目的を絞ったライフログとして私自身の専門分野である画像解析を使って、食事内容にある程度ふみ込んだ記録ができないだろうかと思いました。それが、結果的に写真を撮って送るだけという具合に、記録の登録を簡単にし、入力の手間が極力少なく記録が長続きしやすい現在のシステムにつながったと思います」(相澤氏)

FoodLogは、携帯電話やデジカメで撮った写真をメールで送信するだけで、PCのサイトにアップロードできる仕組みになっている。アップロードされた画像は、まず食事画像であるかどうかを画像処理により判定が行われる。食事と判定された画像には、さらに画像処理が施され、厚生労働省と農林水産省が発表している「食事バランスガイド」の区分けに従った主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物の5項目に分けられ、それぞれの摂取量が登録される。

「まずはアップロードされた写真が食事かそうでないかという判断を行います。例えば食事の多くは皿に乗っているので、食事の写真には画像内に円が多いなど、風景写真や人物写真とは明らかな特徴があるのです。輝度(明るさ)の偏りで色や形を判断し、仕分をしていきます。次に、画像をブロックに分け、それぞれのブロックが主食、副菜といったもののどれにあたるかを先ほどと同じように判断していくのです。なお画像処理は、完全ではないので、ユーザが簡単に結果を修正できるような仕組みを提供しています」(相澤氏)

個人のログ管理だけではなく、社会学的な検証も可能

本格的にシステムを組んでサービス化したのは、2009年。

「データセットによって精度はずいぶん変わります。食事画像の判別だけに関して言えば、現在では93%ぐらいまで向上しています。画像の特徴を抽出して同じ特徴を持つ要素と照らし合わせるという方法をとっており、メニューを特定させるわけではないので、メニュー数に応じた写真が必要になるわけではありません。しかし、データセットに同じような特徴を持つものがまったくないと、合致するデータが得られず、うまく判定ができません。現在は、新たにデータを追加したり、食事登録後の修正を組み入れる取り組みを進めています」(相澤氏)

今後は個人のログ管理として便利に使えるものを目指すのはもちろん、食の情報を共有化することにも興味があるという。

「摂っている食事内容で対象を分類すると、見えてくるものがあると思うのです。例えば、ある程度データがたまってくれば、性別や年代、居住地域で食事内容に大きな特徴は見られるのかといったことがわかるのではないでしょうか。例えば、沖縄の50代以上の人たちはどんな食事を摂っているかということが数値としてわかれば、長寿の秘密に近づけるかもしれません」(相澤氏)

食事というのは、誰もが毎日行うもの。そこから得られる発見はかなり大きいものになると相澤教授は考えている。

今後のビジネス展開

2010年4月からはfoo.log株式会社がプロジェクトに参加し、開発や運営を担当するようになった。あわせてサーバの強化やデザインの変更などユーザビリティの見直しも行っている。現在のユーザは約2000人で、男女比は男性2、女性1程度だという。今後の方向性について聞いてみた。

「写真で食生活を記録するということには、テキスト入力やメニュー選択とはまた違う魅力があるはずです。例えば『お寿司を食べた』という記録ひとつとっても、テキストでは単なる文字列と数値にすぎず、誰が入力しても変わりはありませんが、写真はたった1枚しかないもの。自分の生活の軌跡だという思い入れが込めやすいのです。今までの経験から、1ヶ月続いた人は、かなりの割合でその後も入力し続けるということがわかっています。ある一定の年数以上続けたユーザは、その先も使い続けたいと思うのではないかと思うのです」(小川氏)

プラットフォームとしての機能を提供することでのビジネス展開も視野にいれている。

「サービスを追求していくと、ユーザのニーズに合ったものを設計しなければいけないと思いますが、食事というあまりにも普遍的なものを扱う以上、最初から目的を絞りすぎるのはもったいない。当社が提供できるのは、食事の画像を集めて何らかの有益な情報を返すという技術で、それをどう応用するかは、この機能を使いたいという企業が独自に考えてもらってかまわないと思っています。例えば、健康サービスに特化した企業がその一環として食事管理システムを作る、あるいはエンターテインメントに強い企業がリアルな食事情報と連携して遊べるようなゲームを開発するといったように、それぞれに得意分野を持ち寄ることで、エンドユーザに向けて、より有益なサービスが提供できるのではと考えています」(小川氏)

すでにいくつかの企業からの打診もあるという。相澤・小川両氏は、具体的な検討に向けて、数値の妥当性を高めるための画像処理の再評価や、さらなる機能の追加、また、より使いやすくするためのデザインリニューアルなどに積極的に取り組んでいきたいと語った。

[ 取材日:2010年7月13日 ]

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