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2009.12.17 株式会社リンクアンドコミュニケーション 代表取締役社長  渡辺 敏成 氏

現在1000診療所で食事指導サービス「カロリーママ」を展開しているリンクアンドコミュニケーション。2002年設立以来順調にかつユニークな視点でビジネスを進化させてきており、その背景と今後について渡辺社長に伺った。
渡辺 敏成[ わたなべ としなり ]
一橋大学商学部卒業後、味の素株式会社にてプロダクトマネージャーとしてマーケティングに従事。その後、株式会社ケアネット常務取締役として医師向けコンテンツ事業の責任者を経て、2002年にリンクアンドコミュニケーションを創業。

食事指導からマガジンの発刊へ

「ヘルスケア業界におけるオープンなネットワークと情報プラットフォームをつくりたいと最初に考えました」まさにリンクアンドコミュニケーションの社名もその思いで表現されている。 2002年に会社設立後、診療所、特に内科のかかりつけ医に着目したのだそうだ。そして最初に3クリニックに協力してもらい徹底的に調査をして戦略を練ったという。その中で見えてきたこととして昔と比べ変わってきていることに疾病構造があった。十数年前であれば急性疾患が多かったが今は慢性疾患つまり生活習慣病が多く、根本的治療には「生活指導」が必要であるが、医師は本来その分野の専門家ではない。そこで開発されたのが診療所で展開する生活習慣病の予防・治療を目的とした食事改善プログラム「カロリーママ」である。 サービスニーズはあるものの運営上の課題も見つかった。診療所によって利用者数のバラツキがあり、プログラム内容をドクターによって上手く説明できていないことが分かってきた。 「やっぱりドクターに任せるだけではだめで、我々から直接患者さんにプロモーションする媒体が必要だと考えました。それがこの生活改善レシピです。その際、中途半端に作るよりも、ユーザーの生活改善ニーズに基づいたしっかりしたマガジンを作ることで、フリーペーパーというスタイルのビジネスにしようと考えました。そして『カロリーママ』というプログラムと『生活改善レシピ』というメディアの2本立ての仕組みがきちんと成立するのではないかと考えました」 この渡辺氏の発想はサービス対象の現場の課題をしっかりと解決方向に導くコミュニケーションデザインと言えそうだ。「生活改善レシピ」は2005年のスタート時は季刊誌として1万部用意した。好評のため、1週間前後で全部配布してしまった。現在では約23万部となっている。

栄養士とのオープンなリレーションを実現

「カロリーママ」を診療所向けに運用していくプロセスで最初に苦労したのはアドバイスの標準化だという。同じ食事日記を複数の管理栄養士に見せると指導ポイントの優先順位が異なることがあった。そこで数多くの管理栄養士に集まってもらいルールを定めてシステム化した。この経験が背景となって生まれたのが「食事指導のプロを目指す栄養士のためのポータルサイト『かわるPRO』」である。現在、このポータルサイトには約3.000名の栄養士が登録しているという。 「栄養士さんの考え方にかなり差があったことと、また在宅栄養士の中には、資格は持っていても知識がメンテナンスされていない方もいるため、知識のブラッシュアップが必要だと考えました。その解決に向けて、我々だけでは大変なので、様々な専門家の方々や企業の方のご協力を得て、栄養士向けのポータルサイトを広くオープンなものとして立ち上げました。このポータルサイトにはいろいろなトレーニングプログラムやテストもあります。またスキルアップをテーマにしたセミナーも紹介しています。我々にとっては、こういう活動を気に入ってもらえた栄養士さんが我々のビジネスにも参加してくれるというのがもちろんベストなのですが、ほかの職業や企業に行かれたとしても、それはそれでいいのではないかという考え方で作りました」 現在、管理栄養士は約13万人、そのうち仕事に従事している方は約4万人程度といわれているなか、約3.000人という登録数は極めて高いと言えそうだ。これも栄養士資格を持つ人が未来の資格活用ステージへリンケージするベースとその中で自分を研鑽する機会とコミュニケーションを提供するというカタチで同社の戦略の一貫性がみえる。

食事日記データが生む新たなる価値

同社では、食事日記情報をデータベース化している。この蓄積されたデータを基に様々なビジネスの可能性が今後生まれていくはずである。 「もともと私は食品メーカーにいたので、商品開発するときに実際の食卓の姿が気になります。そういう調査活動を継続的にメーカーではやっていました。それに健康習慣が入って、この食事は自分としてはダイエットという気持ちがあって食べているとか、あんまり気にしないで食べているなど、普段の食事、食事を取るときの自分の気持ち、そして自分の健康状態、この3つが結びつくとマーケティングデータとしてはかなり有効ではないかと思っています」

健康インテリジェンス、そして「調理力」

「そもそも食べて健康になることは、人間本来の姿。それが現在では、見失われている。本来の食べて健康になるというカタチになるために、生活者にとって必要な健康インテリジェンスを広げていく会社でありたいと思います」 過去7年間、診療所での生活習慣病患者への食事指導、2008年からは特定保健指導、ウェブサイトや携帯電話での健康意識の高い生活者への食事情報・レシピの提供を展開してきた同社だが、現在、ひとつの仮説を持つに至ったという。 「どうも家でよく料理をつくり、食事している方やその家庭は、健康管理が比較的うまくいっている。そうでない方や家庭に健康課題が多い。ここに健康管理のためのひとつの切り口やヒントがあるのではないか?」 確かに、納得できる視点である。渡辺氏の素晴らしい側面がここにも見つかる。それは経験から発見した課題を次なる進化方向へ向けて新たなサービスメニューとして構築してしまうのである。 「献立を自分で考えることを通じて、自然に食の意識から健康管理意識につながっていき、結果的に健康を維持できる。我々は、“普段食事をつくり、それが健康につながっていく力”に注目し、それを『調理力』とネーミングしました。そして各家庭の『調理力』を高めて、みんなで健康になっていこう!というプロジェクトを立ち上げました。」 この調理力は、既にプロジェクトとしてもスタートしている。そして調理力は3つの力で構成されていると定義、①素材や調味料を選ぶ力、②手早く、上手に作る力、③献立を組み立てる力、がそうだ。様々な食品メーカーもこの動きに注目していると聞いている。リンクアンドコミュニケーションの今後の「食」のあり方提案に注目し、そして期待したい。 「調理力で健康!プロジェクト」サイト [ 取材日:2009年12月1日 ]