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2007.09.05 ケンコーコム株式会社 執行役員 商品本部長  佐藤 亜輝 氏

健康関連商品を扱う国内最大級のECサイト、ケンコーコム。立地条件や売り場面積、在庫リスクなどの制約を受ける従来の店舗型ドラッグストアと違い、ECストアならではの強みを生かした販売戦略が功を奏し、2000年のサイト開設以来、売り上げは年率平均 57.5%のペースで成長している。 実店舗では入手しづらい商品を数多く揃え、いわゆるロングテール型ビジネスを成功させたケンコーコムだが、その背景にはバイヤーたちの嗅覚、直感が大きく影響していた。今回は商品本部長の佐藤亜輝さんに、マーチャンダイジングの役割や特徴をお聞きした。
佐藤 亜輝[ さとう あき ]
オーガニック食品を取り扱う専門店にて、店舗マネジメントや営業、商品企画などの経歴を重ねたのち、2002年にケンコーコム入社。以来、商品買い付けをはじめ、商品本部長として、同社が取り扱う約8万もの商品を支える数十名のスタッフを束ねる。2007年5月より現職。

ロングテールを伸ばす仕入れのこだわり

ケンコーコムの特徴であり、強みといえるのが商品の充実ぶり。その取扱商品数は年々拡大し、すでに8万点(9月5日現在)を超える。こうした商品の取引先開拓や仕入れ計画に携わるのが、商品本部に在籍するバイヤーたちだ。仕入れのこだわりについて、佐藤さんは「店頭で買えない商品こそ、ケンコーコムで取り扱う意味がある」と話す。 「売れないがために店頭から消えている商品でも、愛用してきた方がいます。こだわりを持って使っていた商品が購入できなくなったとき、お客様はインターネットで探し、ケンコーコムを訪れる。だから、ブレイクしていない商品こそがビジネスチャンスだと捉え、充実させているのです。取扱商品が多いと驚かれますが、まだまだ扱い切れていない商品も数多くあります」

品揃えの魅力は新規取引先の開拓にあり

ケンコーコムでは「健康食品」「医薬品」「化粧品」「ペット」など13のカテゴリを設けており、それぞれに担当のバイヤーが配置されている。バイヤーは新規取引先の開拓や商品選定、価格交渉などのマーチャンダイジング業務のほか、担当カテゴリにおけるコンセプト、売り場づくりなども行なう。 中でも新規取引先の開拓は、取扱商品数の拡大に重要なポイントとなる。ケンコーコムでは2007年度中に10万点の品揃えを目標としている。 「基本は健康、医療といったキーワードに合致する商品ラインナップです。それをベースにしながら、周辺商品や機能性の高い関連商品を揃えています。メーカーさんや問屋さんなど数千社と取引をしており、ときには『こういう商品を扱っていませんか』と声をかけることも。また、展示会や博覧会などで情報を収集し、市場にまだ出回っていない商品や販売数の少ないものなどを探しています」と佐藤さんは話す。

バイヤーの嗅覚と直感がヒット商品に繋がる

ロングテールを重要視した仕入れを行なっていれば当然、ニッチ商品のなかでも特に売れない商品が出てくる。実店舗のバイヤーであれば、こうした商品の仕入れは評価に関わる問題となるが、ケンコーコムでは「今、売れていないからといって、今後も売れないとは限らない」という考え方がベース。そのため、バイヤーたちは自分の嗅覚、直感を信じて仕事を進めることができる。 「うちのバイヤーは特定ジャンルに関してのこだわり派が多いですね。知識や興味があるからこそ『これはいい』と思う商品を見つけることができる。あまり売れない商品でも、1年後2年後にヒットすることがあります。それが、この仕事のおもしろさでしょうね」 ある商品がテレビで取り上げられたことをきっかけに、ブレイクした場合、実店舗では今後の売れ行きが予測しづらく、欠品をして売り逃がすことも多い。しかし、ケンコーコムではどこよりも早く、売り上げ傾向を察知・分析して、商品を確保できる。佐藤さんは「事前に揃えておくことが大切。お待たせすることなく、お客様に販売できることが大切なのです」と話す。

探しやすさの工夫もバイヤーの仕事

担当カテゴリにおける売り場づくりも、バイヤーの重要な仕事だ。実店舗であればポップやディスプレイを使ったプッシュ戦略(押しのマーケティング)が一般的だが、検索エンジン経由での来訪が多数を占めるケンコーコムでは、プル戦略(顧客を引き寄せるマーケティング)がメイン。つまり、来店客が求める商品をいかに探しやすくするかが、売り上げアップに繋がる。 「検索エンジンで欲しい品を探して来た方だけでなく、トップページから入ってもすぐに欲しいものが探せるような売り場づくりを心がけています。ミネラルウォーターひとつとっても、ケンコーコムでは何百という品を扱っています。キーワードで検索して来られたお客様もいれば、フードのカテゴリからミネラルウォーターのページを見に来たお客様も。硬度や産地ごとにカテゴリを作り、より探しやすくなるよう、工夫をしています」

今後の展開と課題

情報番組が減り、健康関連商品の売り上げが停滞している現在、業界は非常に厳しい状況を迎えている。しかし、ケンコーコムでは健康食品の品揃えを強化していくという。 「マーケットは全体的に停滞気味ではありますが、品揃えを強みとするケンコーコムにとっては、逆にそれがチャンスになります。たったひとりのお客様が求める、ひとつの商品であっても、そのニーズに応えたいのです」 今後は特に健康食品など、付加価値によって値段の幅が広いものに関しては、商品のこだわり、素材についての説明を充実させたいという。 「ケンコーコムはサイト自体が非常にシンプルで、類似商品の比較がしやすい構造になっています。ただ、高額商品に関しては、商品ごとに原材料や説明文を掲載していても、なぜ他の商品よりも高いのかがわかりづらい。そのため、広告ではなく、お客様が知りたい情報を客観的な立場でお知らせしたいと考えています」 ケンコーコムでは従来からのリテイル事業に加え、2005年には自社開発のアフェリエイトサービスとドロップシップ事業、2006年度からはメディア事業を新たに開始。消費者だけでなく、アフェリエイターやバートナー事業者、そしてメーカーなどのサプライヤーからも注目を集めている。魅力的な商品の新規開拓、バイヤーたちの活躍をますます期待したい。

■取材を終えて

佐藤さんはケンコーコムへ入社する以前、自然食品のメーカーで実店舗での販売、営業や企画開発などさまざまな業務を担当していたという。こうした経験が、コンセプトの立案や売り場づくりなど、仕入れだけに留まらないバイヤーの仕事に活かせていると話す。 「実はアナログ人間で、ITに弱い」としながらも、「これからはネット販売が広がるだろう」とケンコーコムへの転職を果たしたその直感には、やはりバイヤーの特性ともいえる嗅覚があるのだろう。ケンコーコムとともに成長を続ける佐藤さんの姿に、力強い姿勢を感じた取材となった。 [ 取材日:2007年8月21日 ]