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2007.07.24 株式会社保健同人社 代表取締役社長   和田 登 氏

2008年4月から実施される医療制度改革の一環として、健康保険組合などの医療保険者に義務付けられる「特定健診・特定保健指導」。 この制度により、健康保健組合は、健診の受診率、メタボリックシンドローム該当者・予備軍の減少率を評価され、その成果により国に支払う支援金(正確には後期高齢者医療制度に対する支援金)に増額減額が行われる。 健康保険組合としては、今まで以上に成果を出すことが必須となるため、健診・保健指導の分野を外部から支援する「健保向けサービス」というマーケットが拡大している。 このマーケットには数多くの企業が参入しているが、その中でも、個人の健康力を高めることをテーマに、長年培ってきた「健康をわかりやすく伝える出版事業」と「電話相談を中心とした健康相談事業」の2つの強みを生かし、2007年4月から新サービスを展開している企業がある。 それが今回紹介する「株式会社保健同人社」が提供する「生活習慣病予防事業の一括受託サービス」だ。今回は同社和田社長に、このサービスのしくみと特長を中心にお聞きした。
和田 登[ わだ のぼる ]
筑波大学第一学群社会学類卒。1983年(株)リクルート入社。住宅情報事業部の営業・企画・編集・事業部長を経て、2005年8月から(株)保健同人社取締役。2007年7月より代表取締役。財団法人保健同人事業団の理事長も務める。

出版と健康電話相談という2つの強み

株式会社保健同人社は1946年設立。健康雑誌「保健同人」を創刊して以来61年間、累計320万部を超える一般書籍「家庭の医学」をはじめとする「出版事業」、看護専門職75名と指導医250名体制で行っている電話相談を中心とする「健康相談事業」を中心に、「EAP事業(メンタルヘルスサポートを中心とした従業員支援プログラム)」、「WEBケータイ事業(コンテンツをネットで提供)」を展開する。 すでに数多くの健康保険組合に出版コンテンツ、電話相談の導入実績がある同社だが、今回新たに「特定健診・特定保健指導」にフォーカスをあてた、「生活習慣病予防事業の一括受託サービス」を開始した。 本サービスは、保健指導事業の計画立案支援(コンサルテーション)に始まり、保健指導対象者の選定・階層化、データ蓄積と管理、健診・保健指導の実施、実施後の評価まで、必要となる全てのサービスをワンストップで提供するもの。 こうしたワンストップ型のサービス提供は、他企業でも提供されているが、具体的にはどのような特長(違い)があるのだろうか?

生活習慣改善行動の「継続」を強力に支援するしくみ

本サービスの最大の特長は、同社の「出版コンテンツ」と「電話相談」ノウハウを活用し、「継続しやすい」保健指導ができる点だ。 ・豊富な「出版コンテンツ」 メジャー入りのメタボリックシンドローム知識パンフ、健診結果を活用したライフスタイルアセスメントツール、歩数記録帳、健康知識入りの健康カレンダー、バインダー式健康ファイル、期間終了後に与えられる「終了証&振り返りシート」など、ツールの豊富さがまず目を引く。 記録ツールでは、単に記録できるというだけでなく長期間保存し、自分のものとして愛着がうまれるよう工夫もしている。 さらに、「健康力」をキーワードに自分自身で健康を積極的に考え、磨いていくことを意識してもらうための従業員と家族向け健康雑誌(雑誌名:笑顔)やパンフレットの提供も行い、単に健康づくりのための健康でなく、「より生き生きとした人生を過ごすための健康」という切り口での情報提供を行うことで、継続の意味・目的を投げかけている。 ・質の高い「電話健康相談」 1988年より開始している電話健康相談。75名を超える相談員は、保健師、管理栄養士、運動指導士、臨床心理士、薬剤師などさまざまな分野での有資格者。 相談員には教育プログラムが実施され、定期的な研修により、単に健康知識をわかりやすく提供するスキルだけでなく、本音を引き出す「傾聴のスキル」を特に身につけるものとなっているという。「電話」という相手の顔が見えない方法だけに、声のトーンや間などから相手の不安や悩みを読みとく高いスキルが必要になるからだ。 今回の新サービスでは、主に保健師と管理栄養士が担当。積極的支援が必要と判断された従業員・家族に対して、面接と電話による指導を行う。その際にも相手がストレスを感じない、心地よさを感じてもらうことを重視した健康アドバイスを行い、より継続しやすいサービスを行なっている。 また、生活習慣をうまく改善できない原因が、個人のかかえる「ストレス」であるという場合も多い。同社はEAPサービスを展開しており、臨床心理士を中心としたメンタル面でのサポートも行える。運動・栄養だけでなく、ストレスに対応した指導ができる点も同社の電話健康相談の特長だ。

パートナー企業と連携し、効率的・効果的な保健指導を目指す

その他の特長としては、パートナー企業との連携がある。 家庭用計量計測機器メーカーのタニタの「からだカルテ」(体組成計などのバイタルセンサーによる計測結果を、Web上の健康管理ツールと連動させるしくみ)を活用し、数値の変化を本人への動機づけとし、保健指導・評価における数値的根拠やデータ連動性を今まで以上に重視したものにもなっている。 また、データ蓄積と管理に関しては、NTTデータが提供する「ヘルスデータバンク」との連携により、高度なセキュリティー環境のもとでの健診データ一元管理を実現する。

今後の展開

今回の新サービスでは、医療保険者を中心とする法人市場への積極的展開により2008年度で7万人、2010年度で11.6万人の利用者獲得を目指すという。 また、2008年から施行される「特定健診・特定保健指導」では、配偶者も対象となる。同社では訪問による指導サービスも提供。本人・配偶者がそろい、リラックスできる自宅で指導を行うもの。すでに100名を超える訪問看護職を全国に抱えているが、更に訪問指導サービスのレベルも高めていく。 携帯サイト「ケータイ家庭の医学」やウェブサイト「健康ちゃくちゃくナビ」では利用者が自分で体重などを管理できる仕組みの提供や情報提供を行なっている。 健康づくりの継続的な支援において、コンテンツと電話相談に高いノウハウをもつ同社の今後には特に注目したい。

■取材を終えて

和田社長は1年前に同社社長に就任。親会社であるリクルート出身である。リクルート時代には住宅情報誌の出版事業を行っていた。 その事業と同社事業の共通点として、 「いずれも、個人の情報力を上げる事業だと思っています。住宅情報ならば、住宅の選び方やその他の情報を生活者が知ることで、粗悪な物件を扱う不動産会社が淘汰され、商品の質が向上されています。健康分野においても、医療提供者と消費者・患者の間には大きな情報格差があると感じています」 「そうした意味で、私たちの仕事は、個人の健康力を上げるお手伝いをすることで、健康業界全体のサービスの質の向上につながればと考えています。また、将来的には、個人が健康力を高め、積極的に健康に投資していく考え方にもつながり、ひいては日本社会が元気になればと考えています」と語ってくれた。 「特定健診・特定保健指導」という新しいマーケットに対し、自社の強みを集約するとともに、パートナー企業との連携により新しいサービスをわずか1年で構築。柔らかい雰囲気の中にもその行動力・信念を感じた取材であった。 [ 取材日:2007年7月2日 ]