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2007.06.28 株式会社ザ・ビッグスポーツ 代表取締役  藤原 達治郎 氏

会員の定着率を上げ、退会率を下げることが大きなテーマとなっているフィットネスクラブ業界。その中でも、非常に低い退会率(月6%が業界平均といわれる中、同社は1〜3%)を実現している企業がある。 それが今回紹介する。「ザ・ビッグスポーツ」。同社の創業者である藤原社長に、低い退会率を実現するしくみと経営の特徴を中心にお聞きした。
藤原 達治郎[ ふじわら たつじろう ]
1943年大阪府生まれ。69年桃山学院大学経済学部卒業後、(株)ジャパン・スイミング・サービス入社。同社取締役営業部長を経て79年(株)ザ・ビッグスポーツ設立代表取締役に就任。スイミングスクールの企画・開発・運営を手がけ、83年総合スポーツクラブの運営、経営に着手。「サービスマインド」の実践を企業理念に掲げ、フィットネス業界にサービス産業の考え方を定着させる。2006.06日本フィットネス産業協会の会長に就任。

サービスマインドを前面に打ち出す

ザ・ビッグスポーツの企業理念は「縁(えん)」からの創造。信条は「サービスマインドを最高の価値と考え、その実践を通じて社会に貢献すること」としている。これは、会社と社員、社員とお客様という出会い(縁)を大事と考え、せっかくのご縁を永続させるためには、サービスマインドを持ち、実践することが重要だとの考えに基づく。 フィットネスクラブはサービス産業の一つであり、そこでは「サービスマインド」が必須となるが、これを徹底した企業はまだ少ない。 同社はサービスマインドの徹底により、低い退会率を実現し、競合との差別化をはかる。具体的にはどのようなしくみがあるのだろうか?

アニメーターと担当者制

同社ではスタッフを「アニメーター」と呼ぶ。 「アニメーター」とは、元来フランス語で「人々を元気付ける、人々を魅了する空間(環境)を作り出す人」といった意味がある。 スポーツクラブのスタッフは一般的にインストラクターとも呼ばれ、一方的に教える「指導者」というイメージがあるが、アニメーターは、「元気づけ、いっしょに楽しむ人」である。 それにより、アニメーターは単に運動指導だけでなく、お客様の目的を聞き出し一緒に目的達成のお手伝いをする為に挨拶、場の雰囲気づくり、もてなしの心など様々な点への配慮が自ら自然とできるようになることを狙っている。 さらに、アニメーターによるサービスをより効果的に運用するのが「担当者制度」。 「担当者制度」とは、アニメーター一人ひとりがお客様を自分(私)のお客様と強く思うことが基本だ。従来のスタッフ全員で顧客全員をフォローするという考え方と違い、一人のお客様には一名の担当者(アニメーター)が配置される。 それにより、顧客とのコミュニケーション頻度が増え、内容も広がることで、顧客をよく知り、サービスマインドを発揮できる機会が増すことを狙っている。 この2つのしくみが、同社サービスを支えている最大の特徴だ。

姿勢に特化したプログラムを展開

同社では、フィットネスクラブに見られるジム・プール・リラクゼーション設備を利用した各種のプログラムを提供しているが、その中で特徴的なのが「姿勢」に特化したプログラム「姿勢プラス」。 2002年に姿勢健康研究所を設立し、2004年には姿勢事業部を立ち上げるなど、同社の「姿勢」への取り組みは早い。 「姿勢プラス」と「姿勢イノベーションシステム」の特徴は、 ・姿勢測定器の活用により、ビジュアルで個人別に現状評価と計画、実践、効果測定が出来る。 ・ストレッチのように左右同じ動きをするのでなく、自分の身体や姿勢の特徴を自覚させ、動き易い方向への動作を中心に行うため、ムリがなく効果的である。 ・姿勢がよくなることで慢性的な肩こりや膝痛の解消だけでなく、トレーニング効果や新陳代謝の向上など、さまざまな効果が出てきている。 姿勢はこれから拡大する健康テーマであり、同社としてもこのプログラムを自社だけでなく様々な企業に販売をしていく予定という。

メタボリック対象者向け新プログラム

また、同社が新しく手がけようとしているのが「ボディ・セオリー」というプログラム。 一昨年から、運動、栄養、メンタルの切り口でのグループでの指導を行う「アンチエイジングカレッジ」を開発し導入してきた成果を元に、今年からダイエット、メタボリックシンドロームをテーマに「ボディ・セオリー」の導入展開を開始した。 これは、週1回1時間のレクチャーと運動を行い、2ヶ月間8回のコース設定になっているプログラム。ベースの「カレッジ」という名称の通り、肥満や生活習慣病予備軍の人は、大量の健康情報に惑わされ何をすればよいのかわからない状況と判断。正しい知識と技術を学びあいながら、自分らしい健康生活を構築するためのプログラムとなっている点が特徴だ。

今後の課題と展開

「人に対する教育は終点が無い。サービス産業において人に対する教育を惜しんでいては、サービスの質の低下は免れないし、お客様の継続はありえない。」と藤原社長は語る。 同社は毎年1回、全社員・アルバイトを含めて、顧客からの満足度が高く、退会率が低いアニメーターを「ベストアニメーター」を表彰している。目標となるアニメーターはだれかということを明確にし、わかりやすく社員に伝えている。こうした工夫を含めて、さらにアニメーターのレベルを上げていくという。 また、今年9月には静岡県清水市に、バーデプール(身体負荷を和らげる温度帯に設定したプール)とアウフグースサウナ、温冷浴槽を備えたバーデコートを新設。 国士舘大学の須藤明治氏の研究成果をもとにしたもので、高齢者や普段運動習慣のない人、身体の関節が固くなったり、痛みがあったりする人向けにバーデプールの特徴を生かした、プログラムを提供していくという。 「サービスマインドの徹底」と、「姿勢、メタボリックプログラム、バーデプールなど差別化されたソフト」を提供する同社。今後の展開には注目していきたい。

■取材を終えて

藤原社長は「社団法人日本フィットネス産業協会」(FIA)の会長も務める。 今回の医療制度改革に対して、フィットネスクラブはどう変わるべきかが課題になっているが、その点に関して 「フィットネスクラブ側は今まで、もともと健康意識の高い人をターゲットにしていました。メタボ対象者のように、そもそも『運動するのが苦手だったり、嫌いだったりする方』を想定した経験は少なく、『どうしてこの運動が必要か』『なぜその運動がいいか』」などの質問に対して正確な情報を提供し信頼を得るための努力が必要です」とも語ってくれた。 藤原社長はサービスマインドをベースに、業界自体を変えていく先頭に立って活躍されているだけに、柔らかい雰囲気の中にもその勢い・パワーといったものを強く感じた取材であった。 [ 取材日:2007年5月14日 ]