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2007.04.27
ワールド健康保険組合
専務理事  安倍 孝治 氏

日本の健康保健組合数は2007年4月1日現在約1520。2002年度ではその約80%が赤字経営だったが、2003年の患者負担の引き上げを受け、2005年では赤字経営は30%まで減ってはいる(健康保険組合連合会HPより)。しかし、今後の高齢化に伴う医療費の増加などにより、先行きは厳しい。

また2008年4月より健康保健組合には、特定健診・特定保健指導が義務づけられる。メタボリックシンドローム対策の充実が求められ、具体的目標の達成度により国に支払う拠出金の金額に加算・減算がされるというもの。今後健康保健組合は、限られた予算の中でより効率的な運営が求められている。

そのような環境の中、健康と経営は結びついているという『健康経営』を提唱し、会社と一緒に健康づくりに取り組み実績をあげているのが、大手アパレル企業ワールドの健康保健組合「ワールド健康保険組合」だ。今回は専務理事である安倍さんに、同健康保健組合の特徴を中心にお聞きした。

安倍 孝治[ あべ たかはる ]
神戸大学経営学部第II課程卒。東大阪市役所勤務の後、1975年、株式会社ワールド入社。婦人、紳士ブランド事業部の生産、営業、企画、人事部を経て、1998年に健康保健組合の常務理事。2007年1月より専務理事。特定非営利法人健康経営研究会副理事長も務める。

マーケティング発想で積極運営を行う健康保健組合

健康づくりを考える際、個人の健康スキル(健康知識の収集や生活習慣の見直し)を上げるとともに、職場、家族、近所の人(自治体)、友人といった様々な人からの支援を受けることが、有効であるといわれる。

ワールド健康保険組合は、個人、職場、家族、近所(自治体)に向けた健康づくり支援を総合的に行う。注目したいのは、「最少の費用で最高のサービスを」を基本理念とし、

・個人へのセグメンテーションアプローチ
・職場全体で健康の大切さを感じる風土づくり
・家族(特に配偶者)へのアプローチ
・自治体との共同施策

を実施している点である。

個人へのセグメンテーションアプローチ

ワールド健康保険組合では、年齢・性別・職種などで従業員をセグメント化し、ライフスタイル問診、健康診断結果、がん検診、医療費の性差、体力測定の結果などを分析していき、そのセグメントごとに、保健師が効果的な施策を実施するという。

例えば40代の男性は、健康診断の結果、有所見者が非常に多い。ライフスタイルでは、連続飲酒率が高く、塩分の多い食事をしており、ストレスを感じている人が多い。さらに労働時間が長いといった分析結果が出ている。

この世代は有所見者が非常に多いという観点で、重要なセグメントとなるが、これらの分析に基づき、保健師がセグメントに応じた指導をすることで個人への動機付けを積極的に行ったり、40代男性の健康づくりに必要な情報を重点的に広報誌などで提供しているという。

「従業員自身が、当事者意識をもち、情報を自分に当てはめられるしくみ。これがまずは第一のポイントです」と安倍さんは語る。

職場全体で健康の大切さを感じる風土づくり

同健保は、「健康管理事業推進委員」を事業所ごとに設置。健康管理事業推進委員は、各事業所の健康づくりのまとめ役として、同健保から提供される事業所ごとの分析結果をもとに健康づくりの内容、実施計画の策定にあたる。

事業所ごとに、項目別異常所見ランキングが発表され、他との比較で、競争意識をもたせるしかけだ。最優秀事業所には、自社で取り組みたい健康づくり事業を提案してもらい、その予算を同健保がもつというインセンティブ制度も導入している。

「本社、工場、店舗ではそれぞれ仕事のスタイルも違い、例えば同じ肥満というテーマでも原因となる習慣は違います。職場ごとにその対策を考え、実施した結果を発表しあい共有する、つまり健康の大切さを職場全体で感じる風土を作ること。これが大切です」と安倍さん。

残業が多く夜食の回数が多いなどの生活習慣は、職場自体の健康に対する考え方が大きく変わらない限り、個人の意識の変化だけでは難しい点がある。そうした意味で、職場全体の健康づくりに対する意識を変えることは、個人の健康づくりの成功に与えるインパクトも大きい。

家族へのアプローチ、自治体との共同施策

「健康ファミリー」。これは、同健保が発行する家族向け広報誌のタイトルだ。家族(配偶者)を意識したわかりやすく、読みやすい内容であるとともに、年に2回直接家庭に送り、配偶者の健康診断受診の促進や健康情報を届ける。

「ただ、配偶者健診の受診率は25%と低く、さらに巡回健診を行っても30%程度までしか向上しないという状況。やはり地域・自治体とうまく共同することが必要と思ったのです」

ワールド本社がある神戸市でも、基本健診の受診率が低いという課題を抱えており、市と情報交換を開始。市と市内に本部のある健康保健組合が参加し、共同で健診や保健事業に関するPR活動を行うまでに発展。今後の成果が期待されている。

「この取り組みは、単に会社内での健康づくりを考えるだけの『ヘルシーカンパニー』から、地域全体での健康づくりを考える『ヘルシーシティ』というコンセプトにつながっています。この取り組みで成果を出せば、さらに日本全国に広がり、『ヘルシージャパン』を実現する可能性も秘めていると考えています」と安倍さんは語る。

健康保健組合のブランド化

「このように私たちは、健康保健組合の『効果的な保健事業』のためには『地域と職域の連携』が必要であり、健康保健組合の経営にはマネジメント論やグローバルスタンダードへの転換が必要であると考えています」

「その中でも『健康保健組合のブランド化』という観点は重視しています。上記で紹介した施策を実施するのは、健康保健組合のスタッフです。スタッフ自身の働く意欲を高める上でも、『ワールド健保』をひとつのブランドとして社内、社外に認知してもらうことが大切と考えています」と安倍さん。

ブランドとして注目されれば、新たな外部企業との出会いにより、有益な情報などが自然と入手できるようになる。スタッフは誇りを持ち、優秀な人材も今まで以上に集まるようになるという。

個人、職場、家族、近所の人(自治体)という幅広い観点で、新しい施策を実施するワールド健康保険組合。「最少の費用で最高のサービスを」という基本理念のもと、上記4つの観点でオリジナルの施策を立案・実施している姿は、今後の健康保険組合の運営の参考になるはずだ。

■取材を終えて

安倍さんは、兵庫県保健者協議会保健活動部会副部会長、健保連兵庫連合会会報委員、神戸市健康を楽しむ街づくり支援システム検討委員会委員なども務め、幅広い活動をされている。

また、特定非営利法人「健康経営研究会」では、企業の経営者、健康保健組合の担当者、アウトソーシング企業を対象に専門部会を設置し、研修会・相談会などを実施する団体の副理事長も務める。

※連絡先:健康経営研究会(問い合わせ06-6362-2310)

活動の幅が示すよう、趣味も多彩で特に「呼吸法」と「拳法」はいずれも週2回の指導と稽古を行い、拳法は4段の腕前にも達する。日々、「武道と気の融合」を自身の身体の中で追い求め、最近、少し、ほんの少しわかりかけてきたとか。大いにエネルギーをいただいた取材であった。

[ 取材日:2007年3月26日 ]