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2006.12.19 サントリー株式会社 食品カンパニー 健康食品事業部 部長 農学博士  新免 芳史 氏

市場規模は2兆円を超え、拡大を続ける健康食品市場。その中で2001年から5年間で売上を約10倍(2001年25億円、2006年266億円予想)にも拡大しているサントリーの健康食品。その中心は「セサミンシリーズ」。今回は、セサミンシリーズの生みの親とも言える新免さんに、業績好調の背景、そして今後の展開について聞きました。
新免 芳史[ しんめん よしふみ ]
1960年生まれ。京都大学農学部農芸化学科を卒業後、1983年サントリーに入社。応用微生物研究所、研究開発部を経て、現在健康食品事業部部長。

低迷が8年続く

サントリーの健康食品事業は1993年に始まる。1980年代から行ってきた発酵技術の研究の過程で、ゴマの健康成分であるセサミンを発見。大学との共同研究を経て「セサミン」を商品化した。 ゴマが体にいいことは、古くから言われており、健康のためには1日大さじ2杯のゴマがいいとも言われる。ただ、ゴマの成分の半分は脂質である上、ゴマは固い殻に覆われており、そのまま摂っても消化されにくい。 そこで、ゴマ成分の中で健康成分であるセサミンのみを抽出し、日常的に摂りやすい形にしたもの、それがサントリーのサプリメント「セサミン」。 ゴマ油が酸化しにくいことでもわかるよう、セサミンの特長は抗酸化作用だ。当初は、この抗酸化作用が肝臓内で活性酸素を取り除くことに注目し、お酒を飲む機会の多い人をメインターゲットにしていた。 販売は、居酒屋・ナイトクラブなどのお酒を楽しむ機会の多いルートを中心に実施。しかし、バブルがはじけ利用者が減る中、有効な施策にはならなかった。また、酒販店ルートも酒の取り扱いがコンビニでも始まった関係で、数が減りつつあり、これも有効な施策にはいたらなかった。 その後、ドラッグストアを開拓しようとしたが、これも「商品のこだわりを説明できない、他の商品の中に埋まってしまう」といった課題があり、うまくいかなかった。 「居酒屋や酒販店ルートを開拓したのは、『商品の特性を生かした流通を考えた点』で、発想はよかったのですが、時代にマッチしていませんでした」と、新免さんは当時を振り返る。 「ただ、長い間不振が続いたのですが、その間も社内のスタッフでサプリメントを摂取した人から、よかったとの声を多くもらっており、必ず転換時期がくると信じていました」とも、新免さんは語る。 こうした模索が2000年まで続き、赤字が増える中、社としての決断が必要になってくる。

ビジネスモデルを大きく変える

そして、2001年に大きな決断を行う。それは流通を直販(通信販売)にするということ。サントリーには直販(通販)の経験はあったものの、「健康食品」というリピート性が特に重要なカテゴリーの通販はなく、実質的経験はゼロだった。社内の新しいスタッフも加わり、通販が開始されることになる。 サントリーの通販における特長の一つはコールセンターにある。現在コールセンターは約100名のスタッフがおり、管理栄養士などの健康分野の専門家も約10名おり、運営にあたっている。 コールセンターでこうした健康分野専門家を抱えるところは多い。ただ、顧客からのちょっとした健康に関する質問に対し、専門家に頼りすぎ、専門家が他の電話にでている場合、返答が遅れ顧客の評価を下げることもある上、コールセンタースタッフと顧客との関係は、単に受発注の関係だけという、無味乾燥な場合が多い。 一方サントリーのコールセンターは、顧客からの様々な質問にできるだけ、1コールで対応すること(スタッフができるだけ一人で対応すること)を基本としている。 そのため、同社ではスタッフの教育に力を入れる。健康知識の必ずしも豊富でない一般顧客と同じ目線で、わかりやすく健康について説明できるようトレーニングがされるという。 また、サプリメントに即効性を求めたり、病気の方が治療効果を求めたりする場合、同社のサプリメントを薦めないケースもあるという。 通販での大きな成長の陰には、「顧客との強力な関係づくり」を意識したこうした仕組みがある。

商品力の高さを生かしたプロモーションも効いた

セサミンシリーズの販売では、20日間の無料お試しパックも行い、これも効果的だったという。比較的高価なサプリメントの場合、20日といった長期間での無料サンプルを提供することは少ない。 さまざまな研究結果にも実証された、商品力の高さがあるので、飲み続けてもらえれば、そのよさを実感してもらえると判断、初期投資はかかるが、長期的にみればかなり有効な施策だったという。 また、セサミンのもともと保有する抗酸化機能を、「若々しさ」や「美容」といったキーワード訴求に変え、認知向上を図ったことも重要な施策であった。 2003年には、アラキドン酸の基礎研究から生まれた「アラビタ」という新商品も開発。この商品は、「うっかりが気になり始めた人」を中心に、高齢化社会の中で特にマーケットニーズの高いこの分野にフォーカスした商品であり、近年の売上に貢献している。

今後の商品開発

同社は事業コンセプトである「人と自然と響きあう」(自然の産物である食材のよさを引き出すこと)を商品開発の基本スタンスとしている。また、サントリー健康科学研究所での基礎研究と科学的なデータの裏付けも重視する。 言い換えれば、自然(安心)と科学(信頼)をこだわりに据える。 この事業コンセプトを柱に、マーケットニーズを読んだ商品開発を今後も進める。その一環として、ストレス社会の中で免疫力を高める効果が期待できる植物性乳酸菌を活用した「胡豆昆(ごずこん)発酵粒」という新商品も、2005年4月に発売している。 また、2006年にはダイエットをテーマにミールリプレイスメント(代替食)の新商品「diet's(ダイエッツ)」を発売。さらに、今後医師や薬剤師が推奨してくれるような場も想定して、科学的裏付け情報を整備していく。 「まず、健康食品ありきでなく、健やかに元気に、若々しく生きることを勇気づけるツールを開発し、世界中に届けたいですね」とも新免さんは語る。

■取材を終えて

お台場にあるサントリーのプレスルームで、インタビューに応じてくれた新免さん。取材中も非常にわかりやすい言葉で、和やかに説明されるのが印象的だった。 2001年に大きな決断をする際、チームメンバーでうまく同意を得ていったと語られたが、社内でのプロジェクト推進に欠かせない知・情を踏まえた説明スキルの高さを特に感じた取材だった。 自社の強みを機軸に、マーケットニーズを先読みし、新商品を開発。ビジネスモデル、プロモーションなどがその強みを十分生かしきっている点が同社の成功ポイント。もちろん、「やってみなはれ」に代表される挑戦意欲が企業文化として背景にあることはいうまでもない。 [ 取材日:2006年11月29日 ]