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2006.03.08 医師(精神科、コーチングカウンセリング) 奥田 弘美 氏

ビジネス業界で話題となっている「コーチング」。その根本から、医療と健康分野の知識を融合した独自のコーチングを提唱しています。 今回は、ビジネス分野でクローズアップされつつあるコーチングの技術を、医療/健康分野の知識と融合させ、独自のコーチング法を提唱されている奥田弘美さん。医療現場へのコーチングの応用だけでなく、女性が自分自身をコーチングする手法を身に付けた生き方「フルコースウーマン」®も提唱されています。
奥田 弘美[ おくだ ひろみ ]
神経内科医を経て、ホスピスでの緩和医療に参加のち、精神科医へ転科。ホスピスでの体験から、コミュニケーションの重要性を痛感し、コーチング技術を取得。日常の診療に役立てるほか、医療現場におけるコミュニケーション改善や、ダイエット、メンタルサポートをテーマとしたコーチングを提唱している。著書に「コーチングダイエット」「メディカルサポートコーチング入門」「医療者のためのセルフサポートコーチング」。東京メディカルケアセンター 八重洲クリニック院長。ウィミンズウェルネス銀座クリニック非常勤医師。岐阜大学医学部非常勤講師。メディカル&ライフサポートコーチ研究会代表。

-奥田さんがコーチングと関わり始めたきっかけについて教えていただけますか?

奥田さん 私は、元々、医療現場における患者さんやスタッフ間での自分のコミュニケーション力に自信がありませんでした。特にドクターになりたての頃は小さなトラブルを沢山経験しました。。心理学の本を何冊か読むということもしていたのですが、難しすぎて、あまり応用できなかったのが現状でした。 出産を機に、それまで勤めていたホスピスを退職することになったのですが、その出産休暇のときに、たまたま医療とは全く関係のないところで、コーチングを紹介するセミナーがあることを知り、コーチングの資格を取得したのです。

-コーチングのどのような部分が、他のコミュニケーション学とは違い、ひきつけられたのでしょうか?

奥田さん ホスピスに勤務していた時代に、もっとも強く感じていたことは、人は、自分がやりたいと思わないと続かないし、自主性がないと伝わらないということです。コーチングでは、その「人の自主性を引き出すコミュニケーション」というところに重点を置いていたのが、興味を持った点です。 一方で、私が参加したセミナーは、ビジネス現場向けであったため、コーチングの考え方や技術に共感できる部分はあったのですが、そのまま医療分野に応用できるものではないと感じました。 そこで、接遇学、行動科学、成功哲学といったような様々なコーチングの基となる学問に関する書物を読みました。そこから、いいとこどりをするような形で、自分なりに必要なことをピックアップしました。

-では、奥田さんの考える医療におけるコーチングとは?

奥田さん 先ほどお話しした方法で、医療現場における必要最低限のコーチングスキルをいくつか抽出しました。それが、「イメージング」、「ゼロポジション」、「未来型質問」など、27個ありまして、それは、「医療者向けコミュニケーション法 メディカルサポートコーチング入門」に全てまとめてあります。 また、コーチング手法とは、一つのツールと考えています。特に医療健康分野の場合にいえるのかもしれませんが、ある程度の知識を持った人でないと難しいと思っています。 コーチングを行う人、その人に背景や知識、資格といったそれなりの専門性を持っていないと、医療や健康領域のコーチングは特に危険です。理想的には国家資格のある医療者が、コーチングを活用していくべきだと思います。 また、医療分野における場合は、特に自分の専門性にいかに結びつけるかということも重要になってくると思います。

-なるほど。では、奥田様自身、その医療・健康分野向けのコーチングの手法をどのように用いられているのでしょうか?

奥田さん 私が、医療健康領域でコーチングの手法を用いている分野は、3つあります。 まず一つ目が、メディカルサポートコーチングです。こちらは、医療現場におけるコミュニケーションに用いるものです。 そして、二つ目がコーチングダイエット。こちらは、一般の方向けにコーチングの手法と医学知識を用いながら、安全に効果的にダイエットを行っていくというものです。 最後の3つ目が、セルフサポートコーチングです。こちらは、精神医学のストレスケア法とコーチングの自己実現、成功哲学の考え方を融合させて、心の元気を養い、自分自身をサポートするためのものです。

-それぞれについて詳しくお聞かせください。まず、メディカルサポートコーチングとのことですが、具体的にどのような取り組みをされているのでしょう?

奥田さん 医療現場におけるコミュニケーション手法なのですが、私自身が、医者としては珍しいのですが、ホスピス、麻酔科、内科など様々な科で勤務した経験があるため、それぞれの現場に共通するスキルを提供しています。 ジャミックジャーナルという医療関係者専門の雑誌があるのですが、そちらでの連載を始めてから、急速に医療界に広がり、今では、月に2回くらいの割合で、大学病院などの指導医(研修医の指導を行うドクター)講習会や学会、研究会などでの講演依頼などを受けています。 また、医療コミュニケーション学で有名な岐阜大学で、年に4回ほど医学教育のセミナーが開かれるのですが、そちらでの講演も行っています。

-では、コーチングダイエットについて教えていただけますか?

奥田さん こちらは、一般向けに一人で安全なダイエットができるように書籍として出版してます。また、勤務している八重洲クリニックでも、ダイエットコーチング外来として、行っています。この場合は患者さんには、2週間に1回ほど、通院してきていただきます。 具体的には、ダイエットするに当たって、ゴールを明確にして、イメージングを行い、その姿を意識化させることが重要になってきます。目標は、具体的にすればするほどよくて、ダイエットをすることで、何がしたいのか、その目標を「マイ・ダイエット・ゴール」として書き、毎日読んでもらいます。

-ダイエットを行うというと、停滞期の過ごし方や、ダイエットに成功したあとのリバウンドなども気になりますが…

奥田さん 停滞期といっても、その人それぞれの理由がありますので、その人の好みやライフスタイルにあった提案をしています。ダイエットコーチングでは、食事日記をつけることを指導していますので、その日記を見ながら、その人それぞれの気づきにより、改善することが重要です。 この食事日記は、自分がその日に食べたものを記録して、食べたものを、栄養素別に3つのマークに分類し、栄養とカロリーについて、わかりやすく管理しています。その日記を読みながら、ダイエットの段階によってマークを減らしていくような食生活を心がけていきます。 これを行うことで、自分を中心とした食生活の知識がつくようになります。人の味の好みや量感覚は、あまり変わるものではないので、ここでつけた自分の食生活に対する知識は、一生使えるものと思います。 ダイエットに対する手法が自然と身につくということですので、少しリバウンドしたときは、その手法を用いて、何をどれくらい減らしたらいいのか、が自然とできるようになるわけです。

-ダイエットというと、運動の重要性がよく言われますが、どのように取り入れられているのですか?

奥田さん そうですね。確かに、運動は重要なのですが、私は、運動は、補助として進めるようにしています。ダイエットは、使うカロリーと摂取するカロリーの差によって、行うものですが、入れる量が変わっていなかったら、結局運動をやめたらすぐに元に戻ってしまうということですから。 もちろん、ダイエットのために運動するのではなく、健康のために運動して、そして、その後も習慣になるような運動でしたら、いいのですが。それは、その人それぞれで提案します。ですがメインは食事療法がダイエットの基本だと考えています。

-最後に、セルフサポートコーチングについて教えていただけますか?こちらは、ダイエットのように、ゴールが見えづらく、先ほど重要とされていたゴールの状態が見えにくい点が難しいように感じます。

奥田さん 現在、あらゆる職場でメンタルヘルスケアが急務になっていますが、確かに、メンタルヘルスやストレス管理にあたっては、確かにゴールの状態が見えにくいものがあります。 そこで、私は「心の充電池」という表現を用いています。自分が一番、満足していた時期を100として、自分の心の充電池を自己評価してもらうのです。 大抵の方に共通する目安としては、自己実現ができている人は、だいたい70〜80%、「もんもん症候群」の人は、50〜60%、うつ病の患者さんは30%くらいですね。 「もんもん症候群」とは、幸せじゃないけど、不幸せでもない、頑張りすぎてしまう、ストレス処理がうまくできない、不満がいっぱいあるわけじゃないけど・・・といった人を総称して、私がつくった造語です。 こういった「もんもん症候群」の人をうつ病にならないようにするために、心のエネルギーレベルを常に80%くらいまで持っていくようなセルフケアの手法がセルフサポートコーチングなのです。 そして、もう一つは、心のエネルギーを充電するということです。そこに、コーチングにおける成功哲学の考え方が生かされています。 現在、企業のメンタルヘルスケアのプログラムを販売している会社で顧問の仕事もしているのですが、うつにならないようにするために、心の充電池レベルを上げるために、自分自身のサポート術を身に着ける手法をご提案することは、今後、専業主婦も含めて、あらゆる職種の人に必要ですね。 自分自身のサインをキャッチする仕方、うつの兆候をキャッチする方法、そしてエネルギーの高め方などを習得していただいて、ドクターに関わる前にセルフケアをして、そこには来ないための方法を提供していけたらと思っています。 ポイントとしては、自分自身とコミュニケーションをしっかりとることで、緩急つけた頑張り方をするとか、自分の心の声をきちんとキャッチするということですね。

-なるほど。奥田さんの行われている医療という切り口からの様々なコーチングの取り組みがよくわかりました。今後は、どのような取り組みをされていくご予定ですか?

奥田さん 現在は、一番は医師として、2つのクリニックで勤務しながら、7つの雑誌での執筆活動を行っています。その割合は、だいたい2:1くらいでしょうか。 ただ、執筆活動は、私のコーチングで見付けた自己実現の方法の一つなので、これからもっと行っていきたいと思っています。特に、今後は、医療関係者のみだけでなく、一般の女性やサラリーマンの方々へ、よりよい生き方ができるように、健康な人がよりいきいきするためのコンテンツのご提供をしたいと思っています。 悪いところを治療するドクターはたくさんいますが、健康な人をより健康に、ある程度健康な人がもっと素敵に生きるためのドクターになりたいと思っています。 現在、健康分野では、毒だし手法としてデトックスが知られていますが、私は心のデトックスドクターを自認しています。そのためにも、執筆のほか、健康ビジネスに関わる企業とコラボレーションしたり、講演やセミナーなども通じで、私の手法をご紹介していきたいと考えています。 また、もちろん、医療コミュニケーションにおいては、コミュニケーションコーチングのリーダーとしての取り組みも続けていこうと思っています。 最後に、女性のサポートを行う取り組みにも積極的に行っていこうと思っています。仕事も、家庭も全部楽しむ女性を私は、「フルコースウーマン」®と呼んでいるのですが、そのオピオンリーダーとして、世の中に多くのフルコースウーマンを作りたいと思います。 私自身が、現在、実践中なのですが、子育て、仕事など全部やりたいけど、まだまだ社会システムが整っておらず、難しい世の中でもあります。そのために自分自身を支える様々な手法を伝えていけたらな、と考えています。

-本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。

■取材を終えて

今回の取材では、ダイエットや生活習慣病、ストレスケア、自己実現に対するアドバイスビジネスを構築するヒントが多くありました。本文ではすべて記載できませんが、奥田様の著書である「コーチング・ダイエット(KKベストセラーズ)」「医療者のためのセルフサポートコーチング(日本医療情報センター)」に詳細があります。特に動機付けの部分は、とても参考になると思います。
今回のビジネスキーワード
メディカルサポートコーチング、コーチングダイエット、セルフサポートコーチング、イメージング、心の充電池、フルコースウーマン®
[ 取材日:2006年2月9日 ] [ インタビュアー:脇本和洋 ]