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2006.02.14 株式会社ヘルスケア・フロンティア・ジャパン 取締役  桂田 昌彦 氏

今回は、最先端をいく「健康自立支援サービス」を展開するとともに、「ビジネス連携」で新しい価値を提供している株式会社ヘルスケア・フロンティア・ジャパンの特徴をお伺いしました。
桂田 昌彦[ かつらだ まさひこ ]
1961年生まれ。 1984年岡山大学工学部卒業後、立石電気(株)≪*現在のオムロン(株)≫に入社。健康機器の販売を経験した後、1999年行動変容プログラム・健康達人サービスを立ち上げる。その後、健康達人を活用したDMサービスの基盤を構築。2005年10月オムロンヘルスケア(株)と(株)損害保険ジャパンの合弁で(株)ヘルスケア・フロンティア・ジャパンを発足し、現職に至る。

-昨年10月に損保ジャパンとオムロンヘルスケアにより新会社「ヘルスケア・フロンティア・ジャパン(HFJ)」が設立されました。新会社の設立背景や概要について簡単にご説明ください。

桂田さん ご存知のとおり、近年糖尿病をはじめとした生活習慣病が急激に拡大しています。厚生労働省も「健康フロンティア戦略」を策定し、ただ長生きするだけではなく、一人ひとりが生涯にわたり元気で活動的に生活できる「明るく活力ある社会」の構築を目指しています。 ヘルスケア・フロンティア・ジャパンは、このような時代の要請に応え、損保ジャパンとオムロンヘルスケアがこれまでの事業で蓄積した経験とノウハウを融合させ、個々人の自律と自立をサポートし、健康維持・向上に向けた生活習慣の改善を支援するサービスを提供することを目的に設立されました。

-損保ジャパンとオムロンヘルスケアの経験・ノウハウとはどのようなものでしょうか?

桂田さん 損保ジャパンでは、保険商品開発で用いる数理統計技術を応用し、健保組合が保有するレセプトや健診結果のデータを分析することで集団全体のリスク評価などを行ってきました。また、損保ジャパン総合研究所では、従来からDM(Disease Management)の調査・研究をおこなっています。 オムロンヘルスケアでは、歩数計や血圧計など健康データを測定する機器に加え、行動変容理論を応用した生活習慣改善サービス「健康達人」などによるDMサービスを健保組合に提供してきました。 「健康達人」は、健康状態やライフスタイルに関する質問を対象者自身に回答していただき、行動科学に基づいた、自身に合わせた目標設定を自分で行うことができるプログラムとなっています。 両社とも健保組合の保健事業を支援してまいりましたが、両社のサービスが互いを補完しあうことで、よりよいソリューションを提供できるのではと考えています。

-お話に出てきた「DM」とはどのような考え方なのでしょうか。

桂田さん DMとは「糖尿病等の慢性疾患の患者集団と、彼らを担当する医師、その他医療従事者の双方を対象として、それぞれの疾病に固有の手法で働きかけを行い、質の高いヘルスケアを低コストで供給すること(損保ジャパン総合研究所)」と定義されます。 私共はDMの定義にある「患者集団」を、健常者や予備軍も含めた生活者すべてを対象ととらえ、広く生活習慣の維持・改善をサポートしたいと考えています。 DMはしばしば「疾病管理」と訳されますが、私共は「健康自立支援」という表現を用いています。なぜかというと、管理という言葉が、サービスを受ける側にとって、何か強制的で嫌な感じを与えかねないためです。 また、疾病管理という言葉が、医療行為と混同されてしまう可能性があるのも理由のひとつです。もちろん、健康自立支援サービスを提供するにあたっては、医療との連携は欠かせないですが、提供しているサービスは、「医療行為」ではなく、日常生活の行動のサポートなのです。

-それでは、貴社のサービスを教えてください。

桂田さん 健保組合をはじめとした公的保険者の保健事業の支援サービスの一環として、バンドル型の健康増進・疾病予防サービスの提供を行います。バンドル型とは、複数の独立した機能・サービスを、一貫したひとつの視点・目的によって、束ねてまとめて提供するものです。 これらのサービスは「計画」・「実践」・「評価」の一連の流れで実施することが重要と考えています。健保組合の皆様は、保健事業において近い考えを持っていながら、なかなか実行できていないのではないでしょうか。 さらに、私共は提供するサービスに対し、その価値・効果を常に明確にすることを目指しています。

-計画・実践・評価のプロセスを具体的に教えてください。

桂田さん まず「計画」ですが、顧客健保が実施している保健事業の現状把握・分析、および事業の計画立案・目標設定を行います。健保組合が保有するレセプトデータや健診、問診結果等を用いて、集団全体のリスク評価を行い、見込まれる改善効果のシミュレーションなども行います。 また、個人ごとにもリスクを評価し、提供するサービスの濃淡づけ(階層化)を行います。この階層化には、本人が生活習慣の維持・改善をどの程度受け入れる状態にあるかといった準備性も重要になります。この階層化により、限られた資源(予算)を効率的に活用し、健保組合全体の健康度を最大限向上させることができます。 次に「実践」ですが、対象者一人ひとりの生活習慣改善プログラムを設計し、プログラムの目標達成を促す働きかけを行います。プログラムの内容は、メタボリック・シンドロームなどの生活習慣病予防に関する情報提供から、「健康達人」などを用いた通信型プログラムの実施、さらにリスクの高い人に対しては管理栄養士といった専門家による個別電話支援といったものまであります。これらのサービスを、一人ひとりの特徴やリスク度合いに応じて提供します。 すでに生活習慣病で医療機関にかかっている人については、かかりつけ医と連携し、医師の指示書に従って、治療を継続し、日常生活を改善し、それを継続し定着させることをサポートします。 最後に「評価」ですが、計画段階で設定した目標がどの程度達成されたか検証します。保健事業は中長期的な取り組みであり、効果がすぐに現れるものばかりではないと思いますが、適切なベンチマークを設定し、その達成度合いに応じて保健事業の内容を見直していくサイクルが重要ではないでしょうか。

-今後の展開としてはどのようなことをお考えですか?

桂田さん 現在の主なマーケットは健保組合ですが、国保(市区町村)や政管健保からも保健事業を受託したいと考えています。医療制度改革の動きを見ると、今まで健診の実施率が低かった主婦などの層にもその実施が義務付けられ、必要に応じた事後指導の実施を強化する方向にあります。まさに弊社が活躍するフィールドが広がり、大きなビジネスチャンスが到来したと認識しています。 また、サービス範囲については、国家的課題であるメタボリック・シンドロームへの対応はもちろんのこと、将来的には生活習慣病対策だけではなく、メンタルヘルスや介護予防分野などにも拡大していきたいと思います。

-昨年12月にNTTデータ社が参画しました。積極的なアライアンス戦略によるものかと思いますが、その狙いはどのようなものでしょうか。

桂田さん NTTデータ社はヘルスケア分野においてシステム開発・ITサービス提供に取り組んでおり、弊社にとって非常に心強いパートナーだと思っています。 多くの方々に弊社の一連のサービスを提供するためには、高度なセキュリティを備えたシステムが今後必要不可欠になると考えられますが、NTTデータ社の参画により、より一層充実したサービスを提供できると確信しています。

-2社、全く違った会社が合併して、一つの事業会社を運営していくのは、色々なご苦労があるように思います。

桂田さん 確かに戸惑いはあります。オムロンヘルスケア社は製造業で、損害保険ジャパン社は保険業ですので、企業文化や仕事の進め方は違って当然です。ただ、両社は合弁発足前2年間ほど包括提携をしており一緒に活動を行ってきたので、メンバー間の信頼関係はできておりました。 よって、戸惑いはあるものの、悩みや摩擦といったことはありません。もし悩むことがあれば、HFJとしてどうしたらよいのか、ということを考えるようにしております。主語は常に、オムロンや損保ジャパンではなくHFJです。

-それでは、最後に桂田さんの健康づくりについて、お聞かせ下さい。

桂田さん もともと、すごいヘビースモーカーだったのですが、私たちが提供している健康達人禁煙プログラムを自ら利用し、禁煙に成功しました。その後、すごく太ってしまったので、再度、自社の健康達人減量プログラムに参加し、減量に成功し、その後も体重を維持しております。自社サービスの宣伝になってしまいましたね。でも本当に効果があるプログラムと自負しております。 その後は、土曜日、日曜日と週2回、2時間ずつ運動をするということを、ここ4、5年続けています。体重を減らすというより、汗をかくことを意識して取り組んでいます。あとは、よく寝るということですね。 ただ、良くないことですが食事の規制はしていませんね。完璧を目指すと続かないので。全てをやるというのではなく、やれることをやって、できないこと、無理なことはやらないというようにして、継続できるようにしています。Bestを狙って挫折するより、betterの継続を選択しました。これからも食事の規制はしないということではありません。今のライフスタイルが定着したら、次は食行動の改善もしたいと思っております。

-本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。

■取材を終えて 今回のお話では、様々な仕組みについてお伺いできたと思います。日本におけるDMの仕組み、健康自立支援サービスの仕組み、行動変容の仕組み、業務アライアンスの仕組みなど。どの仕組みにも共通していえるのは、フォーカスをおいて、重点的に取り組むことの大切さと感じます。
今回のビジネスキーワード
DM(Disease management ) 健康自立支援型サービス 行動変容 強みを持ちよる業務アライアンス
[ 取材日:2006年1月19日 ] [ インタビュアー:脇本和洋 ]