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2006.01.31 「にんべんのついた健築家」 関原 宏昭 氏

今回、お話を伺ったのは、関原宏昭さん。生活者一人ひとりの元気からまち全体の元気を引き出すことをアプローチし、健康ビジネスのソフト&ハード全般にわたって活躍されている方です。
関原 宏昭[ せきはら ひろあき ]
1959年広島県生まれ。 『にんべんのついた健築家』として、株式会社ラ・ピュア地域デザイン研究所代表、株式会社ヘルストラスト一級建築士事務所 所長であり、(財)地域社会振興財団、(社)全国保健センター連合会講師を務めていらっしゃいます。介護予防から一歩進んだ「元気づくり」「まちづくり」を支援するコーディネーターとしてご活躍。

-まず、関原さんの現在の活動について、簡単に教えていただけますか?

関原さん 保健・医療・福祉施設のプロデューサーとして、建築物そのものを作ることから、その施設で行われるプログラムの企画までを行います。方法としては、参加される方々の想いを引き出すコミュニケーション方法で、一人ひとりの元気とともに、まわりの人々や、まち全体を元気にしていこうという取り組みを行っています。

-もともと建築家として活動されていくなかで、健康というテーマについて興味を持たれたのはなぜですか?

関原さん 保健センターの建築を手掛けていくうちに、建築物そのもののハードを企画することに加え、地域に相応しい活用や運営方法の重要性に気づき、ソフトを主導とした企画をするようになったというのが経緯です。

-プログラムを企画されるにあたっては、健康学習学会を主宰されている石川雄一医師の影響が強くあったと伺っています。どのような影響があったのでしょうか?

関原さん 石川ドクターがよく話されている「物事を自分事でとらえ、どう自分が対応するのか」という考え方を取り入れ、グループワーク方式での企画調整からソフト&ハードを同時に策定する参加型プログラムづくりを行っています。 私自身もプロデュースを行う中で、それまでは、建築家として自分自身の想いをクライアントにどう納得させるか、という視点で行動していましたが、逆に相手の思いをどう引き出すかということに、重きを置くようになりました。

-その経験が、エッセンスとして、元気プログラムのソフトに取り入れられているということですね。では、関原さんの実践されているプログラムで、関原さんならでは、という部分は、どのよう点でしょうか?

関原さん プログラムの特長として、スケッチを描くことで自分の元気の源に気づくプロセスを取り入れていることですね。参加者の方々に、色を通してのコミュニケーションや、イメージスケッチを描いてもらったりしながら自分自身に気づいてもらうことが主な内容になっています。

-そのプログラムの内容について、詳しく教えていただけますか?

関原さん それでは、「元気絵」プログラムについて、紹介します。このプログラムは、まず、参加者に色を選んでもらうことから始まります。最初は、自分の色、続いて、4人ぐらいのグループをつくり、そのグループの色、そして、参加者の方々の住んでいるまちの色というように、ね。

-色を選ぶ… 普段生活していてあまり考えないことですね。

関原さん それが面白くて、参加者は高齢者の方が多いのですが、その方々が選ぶ色ってどういう色が多いと思います?「おじいさんだから、こんな色が合うだろう」とか、「おばあさんだから、この色が好き」とか、ある程度、決めてかかってしまいそうですよね。ところが、参加者の方々が選ぶ色は、予想外の自分色であることも多く、改めてその人らしさを再認識させられます。

-色を選んだ後は、どのような事を行うのですか?

関原さん 参加者の方々に、今までに自分が、落ち込んでいるときなどに、元気になった場所やシーンを思い出していただき、それを描いてもらいます。その作業は5分という短い時間で行います。そして、その描かれた絵を元に、参加者の方々の思いを伝えあってもらうのです。

-5分でスケッチをする。ちゃんと描けるのか、不安です。大変そうですね。

関原さん それが、みなさん、5分で描いたとは思えないような素敵な絵を描かれますよ。絵は、上手に描こうとすると、構えてしまうものがありますが、本来は、紙と鉛筆があればできる簡単な表現方法です。5分という短い時間で気軽に書き上げることで、同じ絵を描くということでも、全く違ったプロセスになり、その絵を通すことで、まさにそれがコミュニケーション手法の一つとなります。

-こういったプログラムは、どのような場所で提供されているのですか?

関原さん 主に自治体の高齢者健康づくり事業で行っています。ただ、このプログラムは、年齢や性別を問わないものですので、多くの方にプログラムに参加していただきたいですね。

-今後、どのような方に参加していただきたいとお考えですか?

関原さん 子育て親子の会の方とかと一緒できれば楽しいですね。 もともと、このプログラムの目的は、大きく3つあって、一つ目は、絵を描くことを通して、ともに語ろう。ということと。2つ目は、一人ひとりの“らしさ” を引き出して、自分を見つめ直すきっかけとすること。そして、3つ目が、仲間と取り組むことで、相乗効果を生み、元気を広げていこうとことですから。 このような「元気絵」等のコミュニケーションプログラムを多くの人と行なうことで、「一人ひとりの元気の源」「その地域らしさ」がはっきりとみえてくるようになります。

-「元気絵」によって、「元気の源」がみえてくるとのことですが、ほかにも、現在、関原さんが行っていらっしゃる活動について、お教え頂けますか?

関原さん 2005年の秋に、沖縄で、団塊シニア世代に向けた健康&観光事業企画セミナーを行いました。これは、沖縄の観光業界と地元の人々、自治体と一緒になって、健康づくり事業の推進と、ビジネスチャンスの拡大をしていこうというプログラムです。

-具体的には、どのようなプログラムなのですか?

関原さん 観光業界と自治体の健康推進部門、双方の抱えている問題を解消するために、ホテル滞在者への新しいアプローチとして、観光客の方々に、地元の人との健康・生活文化プログラムを共有していただく仕組みをつくるのです。

-観光業界の抱えている問題とは?

関原さん 価値観の多様化した団塊の世代が定年期を迎えるにあたって、様々なシニアビジネスが生まれています。観光業界でも、団塊・シニア世代に向けた、新しい空間、選択できるプログラムが必要とされています。 リゾートホテルの開発においては多額の設備投資により非日常的な空間づくりやウェルネスゾーンの開発、ペットと共に過ごすことのできるコミュニティづくりと、ホテルそのものに価値を高めることが主流になっています。しかし、健康サービスの創造を考える場合、取り巻く地域や住民の方々との連携を考えた運営、シニアサロンのような共有できる場づくりが実現できれば、「豊かな人生」を目指したプログラムが更に幅広く具現化できると思います。

-では、自治体の問題とは何なのでしょう?

関原さん 自治体においては、介護予防事業の推進、地域性に合わせた健康づくりへの取り組みや、指定管理者制度の施行に向けた行政施設の運営方法等、変革が求められています。しかし、大きな予算がつけられない実情もあります。ここで、そのプログラムのマッチングが双方の相乗効果を生むのです。

-しかし、旅行会社などでも、「体験ツアー」として、田舎に行っていろいろな経験ができるツアーが開催されていると思いますが、それらとの違いを教えて下さい。

関原さん 旅行滞在者をお客様的にもてなすのではなく、その地の日常で行われている生活文化・健康プログラムを一緒に入ってもらうことが基本となります。 そうすることで、旅行滞在者は、その地の本当のよさがみえてくることにつながります。また迎える地元の方々は、何気なくしていることを旅行滞在者と一緒にすることで、普段の生活に自信が生まれ、元気づくりのバランス調整が可能となります。そのあたりをいかにコーディネートするかが大きなポイントとなります。

-なるほど。それで、先ほど双方の問題としてあげられた問題点が解決するのですね。

関原さん そうですね。観光業界にとっては、建物に手を入れるといった過大な設備投資をする必要がなく、団塊・シニア世代が求める本物のプログラムの提供を行なうことができます。また、それが地元の方々においては、地域性を引き出した健康づくり事業の推進へとつながります。 実は、この取り組み自体にも、それぞれの立場のよさを引き出すという点で、先ほどお話ししたグループワークの考え方が活かされているのですよ。

-それでは、最後に、関原さんの活動を行うにあたって、最も重要視されているものについて、お教え下さい。

関原さん 元気コミュニケーションプログラム、シニアサロン開発、健康と観光のマッチングにも通じていますが、重要なことは、「地域の元気リーダー」を育成することだと思っています。 血縁という家族同士のつながりとともに、最近ではあまり聞かなくなった、地域というつながりの縁、地縁の大切さが再認識され、地域の元気を生み出すリーダーを育てることから地域の健康づくり、コミュニティビジネスの創造へつながっていくのではと思います。 こうした取り組みを更に他分野の方々と一緒に行い、一人ひとりの元気が地域の元気へとシンプルに広がるようになればと考えています。

-本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。

関原さんのホームページはこちら URL :http://www7.ocn.ne.jp/~sekihara/ [ インタビュアー:脇本和洋 ]