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2012.10.22 ヘルスケア・コミッティー株式会社 代表取締役 古井 祐司 氏  医学博士 副社長 西川 昌人 氏

生活習慣病を中心とした「予防ソリューション」を保険者向けに提供し、被保険者、被扶養者の健康生活をサポートするとともに保険者の医療費支払い負担の軽減を目指すのがヘルスケア・コミッティー株式会社である。この領域でのトップバッターでもある同社の代表取締役古井氏、並びに副社長西川氏に予防ソリューション事業への思いを伺った。
プロフィール
古井 祐司[ふるい ゆうじ]
東京大学大学院医学系研究科修了、医学博士。
東京大学医科学研究所を経て、平成16年東京大学医学部附属病院22世紀医療センター助教、ヘルスケア・コミッティー株式会社代表取締役就任。医療保険者の保健事業を支援しながら、産官学での予防医学研究を進める。平成24年からは健康経営を普及する研究拠点を同大学政策ビジョン研究センター内に創設、同助教就任。厚生労働省、経済産業省、自治体、保険者団体などで委員を務める。専門は予防医学、保健医療政策。
 
西川 昌人[にしかわ まさひと]
1981年花王石鹸株式会社に入社。販売部門でニベア、8×4等の販売促進企画を担当した後、各主力商品のブランドマーケティング(事業計画・商品開発・広告・コミュニケーション戦略策定)を推進。その後、生活者研究センター、ホームケア事業のマネジメントを経て2012年3月より現職。

予防ビジネス事始め

2.JPG予防医療の専門機関として同社は2003年6月に設立され、同年9月には専門職が面談とインターネットでサポートする生活習慣改善プログラムを開始した。
 
ポピュレーションアプローチの考え方に基づく個別性の高い情報提供ツール『QUPiO(クピオ)』冊子版・ウェブ版は保健指導事業業界では特に有名かつ実績も豊富。
 
「最終的には国民ひとりひとりにダイレクトに健康提案をしていきたいという思いはありますが、今は健康保険組合・共済組合・国民健康保険を介した展開が中心になっています。
 
特定保健指導事業は有意義ですが、予防医学の強みがまだ十分に発揮されていない面があります。
 
B2B2CのBを担う保険者がどうしてもこの3-4年はハイリスクアプローチに偏りがちになっています。子供も含めた国民全体へのアプローチも重要と考えています(古井)」

予防ソリューションとマーケティング

同社の予防ソリューション活動を振り返ってみると様々な試行錯誤があるという。
 
「要医療者への指導はあったものの、住民や従業員に画一的な情報やモノを提供するというバラマキ的な保健事業をいかに丁寧にやれるか。それを解決する武器となる健診データがなかった2005 年頃、特に健診を受けていない被扶養者にアンケートを配って、身長・体重・生活習慣・意識などの問診結果を分析して今のQUPiOをつくりました。
 
弊社の専門職が各人に応じたアドバイスや健康情報を作成し付加していくと、健康な人には10ページのQUPiOが届くのに対して、種々のリスクのある人には60ページになってしまいました。値段も当時のオーダーメイド冊子QUPiOは1冊3,000円超でした。
 
試行錯誤はまだ続いていますが現在は12ページで、属性やリスク・生活習慣のパターンから優先順位をつけて編集しているスタイルになっています。冊子版のQUPiOで30万人、ウェブ版で120万人のユーザーに提供していますが、これが絶対という最適解がつかみにくい世界なのだと思います(古井)」
 
ポピュレーションアプローチとして多くの人を対象にしながらも、個別のアテンションを加えていくスタイルを進化させてきているのだ。全く個別のフルカスタマイズも考えられると思うのだが少し違う角度のスタンスをお持ちだった。それは1億2千万通りの提案が不可欠なのではなく『いかにその対象者の心に響くか』が主題なのだと古井氏は言う。『響くのであれば10パターンだっていい』この考え方は消費者マーケティングに近いと感じているとのことだった。
 
なるほど、花王の出資を2008年に受け、つい最近2012年には味の素も参加した背景には、予防ソリューションを消費者マーケティングレベルまで進化させていきたいという戦略だと筆者は合点した。

予防は拡がっていく

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 今後の課題や展望についても伺った。
 
「退職時に企業健保から国保にデータを引き継げないというポータビリティ課題が60-65才の時に起こる。これも引き継げるデータの仕組みなどを進めています。今後団塊の世代の多くが健保から国保へ移動する。そのリタイヤした方にも健康づくりを利用していただくことができるようにしていきたいのです。
 
そうなっていく前提で、どこからそれらのサービスに対してお金を取っていくか?が課題になっていくのですが、個人から、地域のフィールドプレイヤーから、企業からと様々なバリエーションが今後考えられると思うのです。
 
地域連合体で面をカバーするというようなカタチになってくだろうと予測しています(西川)」
 
現状想定できるプレイヤー以外にも地域の健康への貢献という役割の可能性はあると思われる。こういった取り組みは同社だけではできないとのことだ。今後新たな出資者の可能性を問うと否定せず頷いていた。
 
生活環境プラスモノが健康づくりには絡んでいく必要がある。言い換えればいいものを揃えて消費を促していく適切な情報交流がある健康生活というアプローチになっていくのではないだろうか。
 
同社には専門職(医師・保健師・管理栄養士)が予防に特化して30名いるがこのような職場は他にはほとんどないと言っていい。
 
「現在約7,000名の特定保健指導もこなしながらノウハウを体系化してきているので『ここをファームとして専門職が様々なフィールドに飛び出し、健康づくりのコミュニティを育てる動きがでてくると面白い』と思っています(古井)」
 
実は専門職のコミュニティへの関わり方でそのコミュニティ全体の健康スコアをアップするメソッドをHBWとしても注目しているのだが、正にその方向での模索を既に考えている様子。
 
「40代男性だけのダイエットを目的にしたコミュニティ活動の停滞期に女性の専門職を介入させる実験をしたのですが、極めて効果的で全員目標達成でしたよ(西川)」
 
と専門職の新たなチャレンジに手応えを感じ、期待しているようだ。
 
最後、古井氏にこの予防ソリューション事業の面白さについて伺った。
 
「人が変わって(良くなって)いくことがとても嬉しい。そして、予防は社会全体に波及していくのです。その動的なおもしろさが社会を動かすのです(古井)」
 
予防の必要性・重要性が叫ばれて久しいが、事業として成立させ、成長させていくには課題が多いことも確かだ。2008年から始まった保険者による特定保健指導事業領域において、どこよりも多くのポピュレーションアプローチを通じて予防ソリューションを磨いてきている同社が、今後どのような活動を展開していくのか目が離せない。きっとそこに予防ソリューションの未来の形が見えるのだと思う。
[取材日:2012年9月21日]