医学博士学位習得を振り返り

スポルツ アドバイザー 今村貴幸

年の瀬になりましたが、今年、私にとって最大のトピックをご報告させていただきます。


2011年9月16日(金曜日)に、2003年より学ばせていただいた埼玉医科大学リハビリテーション医学教室で医学博士の学位を取得することが出来ました。長い道のりだったのですが、非常に充実した日々を過ごしてきました。


私が学位を目指したのは、今から約15年前になります。
当時、スポーツクラブでアルバイトをしていた時、お客様から「今度会社の健康診断があるんだけど、去年あまり結果が良くなかったから、今年は大丈夫にしたいのだけど、運動でどうやったら改善できる?」という質問を受けました。一通りのアドバイスをすることは出来ましたが、私の中では疑問が浮かんでいました。運動することで、肥満、血圧、血糖値などの改善が出来ることは知っていましたが、「なぜ」運動すると健康状態が改善されるのかという事を知りませんでした。この時から、私の「なぜ」が始まり、勉強したいという思いが強くなっていきました。


私の研究テーマは「自重を用いた在宅レジスタンストレーニングが慢性期心疾患患者の運動耐容能に及ぼす効果」というものでした。
心疾患で手術を受けられ、その後急性期リハから回復期リハを終えられて、慢性期に入られた方が対象です。近年病院での入院期間は短く、入院中に運動療法をするのですが、当然退院後も継続的に行う必要があります。しかし、毎回病院に来て監視型でのリハでは時間的な制約などもあり、継続が難しくなります。当時、レジスタンストレーニングはあまり積極的に行われていませんでしたが、心疾患患者でも有酸素運動だけではなく筋力を改善するための運動が必要であるという考え方が増えている時期でもありました。そこで、時間的な制約も少なく、安全に効果的なレジスタンストレーニングの方法として、自重を用いた運動指導をし、その効果について検討しました。結果としては、安全性が認められ、筋力も改善し、それに伴い運動耐容能についても改善が認められました。患者さんとしては良い効果が得られることが実証されました。実施した方に意見を聞くと、筋力トレーニングをすることは日常生活動作(例えば、階段の上り下りや立ち上がり動作など)が楽に感じるようになるとおっしゃっていました。また、対象者が男性であったため、腹筋運動をすることで、腹筋に筋肉が付いてきたことが何よりうれしいと言う方もいらっしゃいました。


高齢社会から超高齢社会を迎える我が国ですが、今後、整形外科的な疾患だけではなく、内部障害を持った方も増えてくるでしょう。医療技術の進歩によって延命は出来ると思います。しかし、人がより良いライフスタイルを送るために、まずは一次予防。しかし、疾患にかかってしまう事は多くの人が避けられないと思いますので二次予防としての運動療法は非常に重要になってきます。しかも、現場での指導では、ある程度の医学的知識を有した運動指導が出来る専門家が望まれます。現在我が国ではCEP(Certified Clinical Exercise Specialist)の制度についての整備が進められています。これは、ACSM( America College of Sports &Medicine)が中心となり行っているものですが、高度に医学知識を有し、運動の効果や運動不足が身体に及ぼす影響についての正しい知識を有し、運動を実践できる運動指導者を指します。


我が国が抱える少子高齢社会の問題において、高齢者が自宅の近くで一次予防としての運動や何らかの疾患に罹ってしまった後での二次予防、場合によっては三次予防まで、医療現場との連携を保ちながら安心して運動を実施できる環境の整備が望まれます。
私の今後の目標としては、多くの人が生活習慣病などの疾患に罹患しないために継続的に効果的な運動を実践できるようにすること。あるいは、何らかの疾患に罹ったとしても、運動やスポーツを楽しみ、運動の実践によって症状を改善し、より良いライフスタイルを築き上げることをサポートできる知識や実践方法を考え、増やし続けていきたいと思っています。